義母と、違和感と、同級生と-8
(あ、あいつ……!)
貴洋が物陰に身を潜めたまま、目だけを慄然と見開く。
これまで感じてきた亜矢に対する違和感。その正体が、今一気に判明した。
やはり問題は外見上のことなどではなかった。肝心なのはそれが「誰のため」であったか、
ということ。
そして亜矢は、その全てを謙吉に――自分の同級生に――捧げていたのだ。
「くっ……!」
貴洋はわけもなく、目の前の石塀を思いきり殴りつけてやりたい衝動に駆られた。
自分には一分の理もないと分かっていても、抑え切れない激情が胸の奥でぐるぐると台風の
ように渦巻く。
「ひょっとして重い、かな? こういうの……嫌?」
物陰で激情を持て余す貴洋をよそに、亜矢と謙吉のピロートークは続いた。
「ううん、全然。僕、尽くされれば尽くされるほど嬉しいタイプだし、色々と応えてあげたく
なるよね。ただ、ちょっと意外ではあったけど」
「……意外?」
きょとんした顔で尋ねる亜矢に、謙吉は昔と変わらぬ落ち着いた調子で淡々と語る。
「うん。亜矢さんってしっかりした、芯の強い感じの女(ひと)だと思ってたから」
「そ、そう? わたし、そんなにきつく見える?」
「ううん。きついっていうのとはちょっと違うんだ。筋が通ってるというか、優しいんだけど
叱る時はしっかり叱ってくれる、みたいなね。理想の母親っていうのが一番近いかも」
「やだ、それは誉め過ぎよ」
亜矢はそう言って謙遜したが、その浮かれた声色からすると、胸の内ではそうまんざらでも
ないのだろう。
「僕ね、中学の頃、貴洋の家に遊びに行くのが楽しみでしょうがなかったんだ」
甘えるように亜矢の顔へ頬をすり寄せながら、謙吉はぼんやり遠い眼差しで、シミに汚れた
板天井を見つめる。
「僕、母親と一緒にいた記憶が全然ないから、そういう人と一緒にいるの、凄くいい気分で。
だからそんなに好きでもないゲームの腕を磨いてさ、遊びに行く口実を作ったんだ。もちろん
貴洋と遊ぶのは楽しかったけど、それ以上にとにかく、亜矢さんに会いたい一心だった」
「え、そ、そうなの?」
驚いたように聞き返す亜矢に、謙吉はうん、と深く頷きながら優しく微笑みかけた。