義母と、違和感と、同級生と-4
確かに、時間は流れている。
夫を亡くした直後、毎日のように仏壇の前で泣き崩れていたあの頃に比べれば、間違いなく
亜矢の悲しみは薄れているのだろう。貴洋はそれを責める気などないし、自分の親不孝ぶりを
省みれば、なおさら義母の態度についてとやかく言うことはできない。
何より、亜矢が過去に区切りをつけて前に進むということは、貴洋自身ずっと望んでいた、
喜ばしい事態であった。
(でも……)
反面、それにしたってやはり妙だ、とも思う。
そもそも、几帳面な性格をしている亜矢がこんな直前になるまで線香を切らしていることに
気づかないのがまずおかしかった。
――もしかしたら、他に――
「……」
ほんの一瞬脳裏をよぎった思考がただの勘違いでは済まない空気をひしひしと感じながら、
貴洋は目の前に座る義母に疑いの眼差しを向ける。
「それで、貴洋は? 何か予定あるの? 明日」
「え? あ、明日は……」
何食わぬ顔で質問してくる亜矢に、貴洋は言葉を詰まらせた。
「え、えーっと……お、俺も出かける。と、友達と会うんだ。高校の」
とっさに口をついたのは、真っ赤な嘘。
「そう。晩ごはんいる?」
「た、多分。夕方には帰ると思う」
「分かった。じゃあスーパーにも寄らないとね」
「あ、ああ……」
こんな当たり前の会話にさえおぼろげな偽りの気配を感じながら、貴洋は心なしか味付けが
変わった気がする味噌汁を一口、小さくすすった。