義母と、違和感と、同級生と-3
「それでね、貴洋」
亜矢の声が、貴洋の視線を仏間から引き戻した。
「実は、その……」
いつもは快活な亜矢が珍しく言い淀んだ。ここにも散らばっている、違和感の種。
「……何?」
波打つような胸騒ぎを抑えつけながら、貴洋は亜矢を急かさないよう注意して問いかけた。
「う、ううん。やっぱりいい。何でもない」
亜矢は思い直したように首を振ると、
「ああ、そういえば貴洋、何で今日電話に出なかったの? 母さん何回もかけたのに」
それ以上の追及をはねつけるようにあっさりと話題を転換してしまう。
「え?」
貴洋は慌ててポケットのスマホを取り出した。
「ご、ごめん。全然気づかなかった。俺、外では必ずマナーモードにするし。何かあった?」
「ううん、もういいの。来る途中でお線香を買ってきてもらおうと思っただけ。ほら、駅前の
あの仏具屋さん」
「え? あ、ああ、あそこか……」
何食わぬ顔でさらりと言う亜矢に、貴洋は気まずそうに応じた。
そういえば父が亡くなってから、亜矢は必ず線香をその店で揃えていた。何でも「安物とは
香りが違う」らしく、墓前に供える銘柄はいつも決まって高級品だった。
(何が、そういうのはちゃんと行っとかないと、だよ……)
貴洋は心の中で自分にそう毒づき、苦笑する。
四十九日くらいまでは貴洋も一緒に行ってあれこれ用意したものだが、今では店の存在すら
忘れかけている始末。父の墓参りなど所詮は単なる口実にすぎなかったことを、嫌というほど
思い知らされた。
「母さん、明日は用事があって昼から留守にするから、帰りにでも買ってくるね」
「あ、俺が……行こうか?」
せめてもの罪滅ぼしに、貴洋が申し出る。
「ううん。夕飯までには戻るつもりだから。いざとなったらお墓の近くにある店でもいいし」
亜矢はにっこり笑って首を振ると、柔らかに貴洋の言葉を拒絶した。
「そ、そう……」
また、言い知れぬ違和感が貴洋を襲う。
以前の亜矢なら、こんなことは絶対に言わなかった。
それどころか、「あの店のじゃないとだめ」とか言って、雨が降ろうが槍が降ろうが勇んで
線香を買いに行ったに違いない。