義母と、違和感と、同級生と-2
「よろしくね、貴洋くん」
「う、うん……」
笑顔が眩しい人。それが、新しくできた母親の第一印象だった。
ある程度大きくなり、少しずつ異性を意識し始める微妙な年頃に差しかかっていたせいか、
貴洋は亜矢にうまく接することができなかった。高校に入るくらいまでは自分の気持ちを整理
できず、正直持て余した。
しかし、それはもう過去の話。
今の貴洋は亜矢を実の母親同然に思っているし、おそらくは亜矢も貴洋を実の息子と同様に
考えてくれているだろう。特に三年前に父を亡くして以降は、お互い暗黙のうちにその思いを
強めてきた気がする。
だが、それでも。
貴洋は時々、胸の奥にトゲが刺さって抜けないような感覚に襲われることがあった。
亜矢を一人残し、東京の大学に通うようになっておよそ一年半。
距離を置き、時間が経てば自然に消滅すると思っていたそのもどかしい痛みは、むしろ日に
日に増しているようでさえあった。
「貴洋くん、私のこと見てないよね」
「……え?」
「どう言えばいいんだろう……視界には入ってるんだけど焦点が合ってないっていうか、私を
通して誰か別の人を見てるっていうか……」
「……」
いい感じに仲よくなって付き合い始めたサークル仲間の女子にそう指摘されてふられた時、
貴洋は何の反論もできなかった。
自覚はなかったが、言われてみれば確かに思い当たる節はあった。
彼女の向こうに見ていたのは、いつだって亜矢の面影だった。
「どうしろって、いうんだよ……」
それまでぼんやりしていた痛みの輪郭がはっきりしてくるにつれ、貴洋は部屋で一人ほぞを
噛むようにそんな言葉を口にするしかなかった。
この夏休みは帰省せずに、ずっと東京で過ごすことも考えた。
だが父の墓参りをおろそかにするのは嫌だったし、急にそんなことを言い出すのも明らかに
不自然な気がした。
そんなわけで、何時間も電車に揺られて帰ってきたはいいのだが――。