〈仕打ち〉-7
『ほら、出来立てホヤホヤの美味しい餌だぞ?』
薄く開けられた視界に、銀色に輝くスプーンに乗ったピラフが見える。
〈餌〉と言われるピラフなど食べたくもないし、こんな鬼畜オヤジに食事の世話などされたくもない。
愛は口を堅く噤むと、プイッと横を向いて自らの意思を示した。
その反抗的な態度は、自尊心がある人間ならば当たり前な反応である。
『なに強がってるんだい?愛ちゃんはエビピラフが大好きなんだよねえ?ま、ペットの好みを知ってるなんて、飼い主なら当たり前のコトだけどさあ……』
部屋の隅に立つ長髪男は髪を掻き上げ、得意気に話す。
その食の好みは、先月号の〔ピュアピュアっ娘〕のインタビューで答えた言葉、そのものであった。
『クククッ…ちゃんと飼い主の手から餌を摂ってくれるかな?なかなか懐きにくそうな様子だけど?』
『なに言ってんだい。あのオマンコの濡れっぷりを見たろう?もう愛ちゃんは俺に夢中なんだよ。早く餌喰い終わって気持ち良いコトして貰いたいんだよ、なあ?』
口々に吐き出される人を人とも思わぬ不遜な台詞は、いっそう愛の自尊心を傷付けた。
それは確かにペットとしての躾を執行している事の証であり、それを止めてくれる人物が居ない事も示していた。
助けを求めて叫び続けても、その声は誰にも届かなかった。
この監禁部屋を、この場所を、両親や警官に突き止めてもらわない限り、きっと何時までも“このまま”なのだ。
陰鬱なままで大好物なエビピラフを見ても、とても美味しそうとは思えない。
しかし、心身の奥底にある生存本能は、その食べ物にいみじくも反応してしまった。
湯気がゆらゆらと立ち上ぼり、その香りは涎の分泌を加速させる。
思わず愛は、ゴクンと喉を鳴らしてしまっていた。
『……喰いたいか?でもその前に喉がカラカラなんだろ?へへッ…心配すんなよ、変な物は喰わせねえから』
首謀者はピラフの皿を床に置き、空腹と屈辱感に揺れる愛の肩に腕を廻すと、ミネラルウォーターのペットボトルの蓋を開け、やや強引に唇に当ててやった。
無駄に発汗した身体は間違いなく渇いていたし、愛は流し込まれる水を口に受けると、その心地好い冷たさに我を忘れてゴクゴクと飲み始めた。
冷水は食道を流れて胃袋に貯まり、それは速やかに血液に乗って細胞の隅々にまで浸透していく。
やがて汗腺からジワリと汗が染みだすと、愛の肌は生気を取り戻して艶やかな光を帯びた。
『……フヘへ…俺の手から水を飲んだか…?』
「……ッ!?」
ミネラルウォーターを飲み干した愛を、首謀者はジッと見つめた。
渇きの癒えた身体は瑞々しさを取り戻し、飲料水に濡れた唇は、少女らしからぬ艶っぽさを見せていたからだ。