〈仕打ち〉-12
『イテテ…ち、ちょっと待ってくれって…?』
シャワー室のドアが目の前でパタンと閉められ、慌ててドアノブを握る……ガチャガチャと音は鳴るのだが手応えはまるで無く、ドアは押しても引いても動かない……。
『参ったな。ハハハ…開かないや……開けて?ねえ、開けてくれよ?』
これだけドアノブをガチャガチャ鳴らしても、誰も中から開けようともしてくれない。
一人だけ除け者にされた状態の小肥りオヤジは、焦ったようにドアノブを回し、なんとかしてドアを開けようと試みる。
『開けてくれよ!僕まだ入ってないんだからさあ!』
泣きべそにも似た喚きは空しく廊下に響き、そして直ぐに静寂が訪れる。
小肥りオヤジはペタンと座り込み、力無く俯いた。
『……なんだよ…なんなんだよ……』
小肥りオヤジは、いきなり仲間外れにされたショックに塞ぎこんでいた。
確かに首謀者は愛を飼うと言っていたし、長髪男は亜季を飼うと宣言していた。
だから自分なりに遠慮をし、しっかりと順番を守った。
長髪男の許しを得てから亜季を姦したし、首謀者にも断りを入れてから愛を楽しんだ。
だが、この〈仕打ち〉である。
まさか二人とも独り占めするとは思ってもいなかった小肥りオヤジには、自分の非が分からなかった。
もう状況は変わっている事を知りもしなかったのだから、それは無理もないのだが……。
『……?』
不意に肩を叩かれて、小肥りオヤジは顔を上げた。
そこにはニッコリと微笑む引っ詰め髪の男が、背中を屈めて見つめてきていた。
『どうしたの、こんな所で?もしかしたら部屋が分からなくなったのかな?』
『ち…違うよ……』
元より肝っ玉の小さいオヤジである。
たった一人では何も出来ず、仲間であるはずの引っ詰め髪の男の顔すらまともに見られない。
俯いたままブツブツと呟く様は、まるで人見知りして小さくなっている幼児のようだ。
『ほら、そこが愛ちゃんの部屋だし、こっちは亜季ちゃんの部屋だよ?入って楽しんじゃえばイイじゃない?』
『だ、駄目だよ……叱られちゃうよ……』
長髪男が居ないうちに亜季の部屋に入ったなら、きっとこの“店”から追い出されるに違いない。
今や君主と呼べる地位を確立した長髪男に逆らえないのは、もはや疑いようもないのだ。