確たる証拠-1
「じゃあ、先に帰ってて」
何もかもが途中のままテレビ局を出てきたらしい夏希ちゃんはヘリから降りるとまた、仕事を片付けに局内へと戻っていった。
あたしは楠木さんに促されるままテレビ局内を歩き駐車場へと向かう。
初めて見るテレビ局に小さくテンションが上がりドキドキしながら周りを盗み見る。
「興味あるなら見学していく?」
「え、いやいやそう言う訳には…」
声を掛けられ遠慮しながらあたしは断った。
車でマンションまで送って貰い、あたしは多恵ちゃんから沢山着信とメールの入った携帯を開いた──
夏希ちゃんが隣に居て出るに出れず、スルーした証拠が記録に残っている…
「晶っ!高槻君からヘリでどっか行ったって聞いたけどどういうことっ!?」
電話をかけ直してでた瞬間問い詰められていた──
・
「あ〜…東京に帰って来ちゃいました…」
「なんでっ!?」
「なんでだろう…はは…」
「…ねえ晶…どういうこと?…」
間を置いて冷静な口調で問い掛けられる。
多恵ちゃんにはどこまで話すべきなのか……
あたしは溜め息をつきながら口を開いた。
「あの…」
「──ねえ、多恵ちゃん?また次にしてくれる?今から俺達セックスするから」
「は!?…ちょ…晶!?──」
背後から取り上げられた携帯電話。夏希ちゃんは電話の向こうの多恵ちゃんに一言余計なことまで伝えて電話を切っていた。
「ちょ…夏希ちゃんっ!!なんてこと──」
背後から強く抱き締めてくる夏希ちゃんに抗いながら声を上げた。
「ほんとのこと言っただけじゃんっ」
「ちょ──」
なんだか羽交い締めにされながらベットへと躰を運ばれていく…
・
シーツの上に押し倒されて聖夜からすっかり普段着の姿に戻った夏希ちゃんをあたしは見つめた。
「俺すげー、色々聞きたいことあるけどっ!?」
「……っ…」
「セックスしてからにするっ!」
「──…っ!…ちょ…待って」
荒々しく夏希ちゃんの手が這い回る。
熱い呼吸──
首筋に吹きかかる息に肌が痺れる
「あ──待って夏希ちゃんっそこはっ…」
愛撫の順番もなく早急に潜り込んだ夏希ちゃんの手がぬるりとソコを張った──
「──…っ?…」
普段の蜜の感触と違うことに気付いた夏希ちゃんが下着の中から手を抜いて目を見張る──
「なんじゃこりゃあ!?」
「──…うまい」
「名台詞。…ウケた?」
「けっこうイケた」
「生理だったの?……」
「うん」
やり場のない血塗られた手を浮かせたまま夏希ちゃんはキスをしてきた──
「一緒に風呂入ろ?…洗ってあげるから…」
「うん」
「洗いながら確かめてあげる…」
「………」
「浮気してないか──」
「──…っ…」
思いきり動揺してしまうあたしがいた。
「どうしたの?」
「な、なんでもない…」
「………」
夏希ちゃんは探るような視線をあたしに向ける──
おいでと手を伸ばす夏希ちゃんの手を取りながらあたしの額から嫌な汗が吹き出していた……
・
風呂の中で俺は身ぐるみを剥ぎ取るようにして晶さんを裸にした──
目の前の柔肌の感触に興奮しながら脳裏には晶さんの手を握るあの男の顔がチラついてしょうがない──
俺の元へ帰ってくる筈だった晶さんを難なく引き止めた。
悔しくて腹立たしくて苛立ちが募る
今の恋人は確かに俺の筈なのに──
どうしても負けた感が拭えなかった…
「…っ…晶さん…」
キスをしながら囁く。
「なんで約束守らなかったの?」
俺が待ってるって思わなかったんだろうか?──
アイツが隣にいる間、俺のことは考えなかったのだろうか──
四年も前に別れた男に負けるほど、晶さんの中で俺の優先順位は低いのだろうか──
「ねえ…晶さん…」
「……」
「俺ってそんなにどうでもいい存在?…」
「……──」
「もしかして…居ても居なくてもどうでもいい?」
うつ向いて固まったまま晶さんは一切、俺を見ようとしない。
「こんなに好きなのって俺だけ?……」
「……っ」
何一つ否定の言葉も言ってはくれない。
「なんだ…
やっぱ俺だけか……」
「ちが…」
頑なにうつ向いたまま小さく呟いた晶さんを抱き締めた。
「いいよ、もう…」
その場しのぎの言葉は聞きたくない──
そんな気持ちで首筋に顔を埋める俺の目に信じられないものが映った──