確たる証拠-2
帰ってきたらめいいっぱい抱いてキスするつもりでいた晶さんの躰。
エンジェルポイントなんて可愛い呼び名の両肩の肩甲骨の真ん中を、俺はわざと空白にしていた筈だったのに──
そこにはしっかりと別の雄の印が刻まれている──
昨夜送ったメール。
返信が返ってきたのはつい四時間前だ──
俺のメールにも気付かないほど没頭したのか…っ!?
普通に吸い付いても中々付かないその場所に、堂々と付けられたキスの痕は明らかにそれに伴う行為が行われていた証で
今夜の新幹線に乗って俺の元へ帰って来る筈だった晶さんは列車に乗らず、挙げ句、別れた筈の男と手を握り花火を見た……
これが何を意味するのか──
「…っ…そうゆうことかよっ…」
声が掠れて震えた…
晶さん──
貴女はほんとにどこまでも残酷な人だ…
だから帰さなきゃよかったのに──っ…
縛り付けてでもいいから手元に置いておけばよかったっ…
・
俺の中から今更な後悔が一気に溢れた。
「夏希ちゃ…」
液体の石鹸を手のひらに沢山とって俺は無言で晶さんの躰を洗った。
「生理いつから?」
淡々と手を這わしながら聞く。
「今、朝…」
「今朝…?…なる…じゃ、ゆうべ激しくされて始まったわけだ?」
「──…!?」
俺の様子が変わったことに気付いたのか晶さんの躰に緊張感が張り詰めていた。
「ど…ういう意味…」
「なんでもないよ…」
これ以上は言わないよ──
言ってもなんにもならない…
追求して損するのは俺だ──
痛い思いも
苦しい想いも──
味わうのは俺だけだっ…
元彼が触れた躰──
今夜は愛せそうにない
俺は泡だらけになった晶さんの肌をシャワーで流し、タオルで拭いてあげた。
「夏希ちゃん……」
「なに?…」
暗い部屋でベットに入ったまま無言で躰を抱き寄せる俺に晶さんから口を開いてきた…
「聞きたいことって──…何かな…」
「……──」
今言わせるのか?
俺 かなり心へし折れてるんですけど?──
・
晶さんの中で俺の優先順位は限り無く低い…
聞きたいことは沢山ある──
でもその半分も俺は口にはデキナイ
もしかしら俺が迎えに行かなかったらどうなって居たんだろうか──
晶さんは元彼とどうなるつもりでいたんだろう…
俺が居るのに──
それこそ昨日の電話で俺の催促に“あいしてる”と言ってくれたのに──
俺は晶さんのつむじに顔を埋めて抱き締める腕に力を込めた。
「晶さん…」
「……うん」
「もし俺がね…」
「うん…」
「浮気したらどうする?」
「──…っ…」
抱き締めていた晶さんの背中が微かにびくりとした。
晶さんなりに色々考えてるんだろうか…
問い掛けてから結構な間が開く。
「……別れる」
「…別れる?…」
「うん」
「一度の浮気でも?」
「……うん…一度でも二度でも同じ…別れる」
「赦してあげようとは思ってくれないんだ?」
「……無理…」
「ふーん…容赦ないな…はは」
そうか、
晶さんは赦さない派か──
「どんなに謝っても無理なんだ?」
「……無理っ…どこぞのドブに突っ込んだかわからないチンチンなんか要らない──」
「ドブ…」
今更だけど、晶さんは結構な毒を吐く。案外黒い人だ……。