愛のメトロノーム-7
「1カメ、スタンバイお願いします──」
男性キャストは全員タキシードを着てスタッフに言われる通りに俺はカメラに顔を向けていた──
風間さんも舞花も他の主要キャスト数人で挨拶に並び、インタビューを受ける。
「明日クランクインの新ドラマへの意気込みを──」
マイクを向けられて俺は答えた。
「今回、今までの青春ものや熱血ものと違い、初めてのジャンルなので緊張しています」
スタジオのカメラと記者人のカメラのフラッシュがたかれチカチカと閃光が走る。
「題材が源氏物語ときてますから勿論濡れ場なども今回は?──」
「ええ…シーンのほとんどが濡れ場です。衣装を着たかと思えば撮影の度に脱ぐってくらい濡れ場だらけです」
会場にどよめきと溜め息が同時に沸く。
・
もうその辺でいいだろ?早く終わらせてくれ──
似たような質問の繰り返しにそんな思いが込み上げてきていた。
「聖夜、もう少し笑え…っ」
楠木さんが口ぱくでそう指示を出していた。
笑え?
この状況でか?──
そう思う度に眉間に皺が寄っていく──
晶さん──
貴女はやっぱりすごいよ…
ここまできたらもう尊敬するしかない──
各番組に源氏物語の番宣のため、分刻みで局内を移動して回っては撮影をする──
他のドラマよりも放送回数が長いこともあり、結構注目されていると改めて実感した──
したけど…
正直、俺にとってはそれどころではない。
毎回振り回してくれる俺のかわいいトラ猫が案の定…
綱を咬みきって逃亡を図ってくれた──
・
「御疲れ様でした」
全ての撮影が終わり、カメラ陣に解放された途端、俺は控え室に脚をはこんだ。
「──…っ…花火を誰と見てんだよ!?──」
「どうした聖夜?」
控え室に入るなり叫んだ俺に後から着た楠木さんは声を掛けてくる。
「楠木さんっ…ヘリチャーターしてっ」
「は?」
「ヘリだよ!ヘリ!三機欲しいっ──…いや、やっぱ五機だわ」
野生の獣を仕留めて手懐けるには銃弾三発だ。
闇雲にぶっぱなしても獣はいずれそれになれてしまう──
まずは一発で俺の存在に気付かせて圧倒させる方法を選ぶ。
「なにするんだ?急だと航空会社は無理だぞ?」
「民間機ならすぐ出せるだろ?」
「出来るがえらい値段が上がる…」
「俺が払うから」
「………」
「払うから呼んで──」
楠木さんは溜め息を吐きながら携帯を手にした。