帰省-7
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取り合えずあたしは目の前の酒を一気に飲み干した。
「晶、電話鳴ってる!」
手元に置いた携帯のディスプレイを高槻は覗き込んだ。
「あ、夏希ちゃん…」
呟くとあたしは席を外して店の外に出た。その背中を見送りながら高槻も席を外した。
「もしもし?」
「晶さん?」
呼び掛けに夏希ちゃんが答えた。
放れた土地で声を聞くとなんだか胸がキュンとくる。
「同窓会はどう?」
「うん、盛り上がってりよ」
噛んじゃった…
「……そう…」
少しの間が開く。
夏希ちゃんは溜め息混じりに口を開いた。
「すごい逢いたい…」
「………」
夏希ちゃんてば…
でもこの気持ちが嬉しかった。
「昨日逢ったばっかやん」
「毎日逢いたい」
「……」
「毎日傍に居たい」
「………」
「ずっと抱き締めてたい…」
これはまた…
ほんとに困った…っ
熱烈なラブコールに電話口で思いきり赤面してしまう。
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「ごめん…」
困って黙り込んだあたしに夏希ちゃんは小さく謝った。
「元彼はどんな?」
ああ…一番気にしてるのはこれかな?…
「晶さん?」
「なんでもらいよ?思ったより普通。心配らいから…」
「そう?…」
「うん…気にしらいで」
あ、ダミだ。ろれつが…
長い台詞は難しい。
何故か一文字だけが言いにくかった──
「……ぷ…飲み過ぎっ」
笑われてしまった…
「沢山飲んだ?」
「うん、ゲームで負けて集中攻撃受けて浴びた」
「ゲームしたの?」
「うん」
「気を付けてよ?」
「うん…」
……嘘ついちゃった──
だって言えないし。
高槻とのことを冷やかされて披露宴ごっこで酌受けまくったなんて──
夏希ちゃん… ごみんね…
「明日、何時に帰る?」
「20時の新幹線に乗るから…」
「わかった。楽しんできて…また、電話する」
「うん、じゃ…」
「………」
「……?」
「“愛してる”は?」
「……え、ここで!?」
「うん」
「言えない?周り静かだけど人居る?」
「居らいよ…」
たしかに居ない。通りは車がたまに行き交うくらいだ。けどあたしは少しずつ暗い場所へと移動して壁を向いた。