愛情の裏返し(後編)-4
乾いた唇を濡らしながら夏希ちゃんのそれに手を添わせてキスをする。
先端から溢れた透明の雫──
そこに舌を充てるとその雫は水飴のように糸を引いていた。
ピチャっ──と音を立ててゆっくりとまた口の奥にそれを含んでいく。
「うあっ…っ…やべっ…」
夏希ちゃんが顔をしかめて吐息を漏らす。
「はあっ…晶さっ…」
「きもちいい?」
「いっ…」
顔を歪めて熱い息を吐く…
ホントに色っぽくて綺麗──
「ああっ…やばいっ…射くっ…口離してっ」
「んん…」
「晶さんっ射るから口離しっ…──っ!!!」
夏希ちゃんの声を無視してあたしは思いきり吸い上げた。
踞るようにあたしの頭を抱き込み、夏希ちゃんは全身を強く震わせる。
その瞬間、あたしの口の中に夏希ちゃんの欲が一気に流れ込んできた…
離してなんていいながら、夏希ちゃんの手はあたしの頭を抑え込む──
根深く奥まで含んだそれははち切れた瞬間にあたしの喉の奥へと走っていった。
・
苦しさに喉が慌ててゴクリと何度も波を打つ。
「はあ…っ…ごめっ…飲んじゃったっ?……」
「……流れてっ…た」
「……まずい…?」
「……──」
夏希ちゃんは恐る恐る聞いてくる。
「晶さん…?」
「──…ゲロまずいっ!」
毒だ、どくっ!
飲み物なんて誰が決めたっ…!?
「夏希ちゃんに毒盛られたたっ…──」
「…ひどっ!?もう少し言い方ないっ!?」
「ういぃ[#禁止文字#][#禁止文字#]喉がイガイガするぅっ…」
「……──っ…」
喉越し悪すぎるっ…
もがきながら喉を掻きむしる。夏希ちゃんはそんな大騒ぎするあたしの口を突然塞いだ。
「んっ……」
濡れた舌が大きく這い回る──
あたしの口に唾液を流し込むと薄くなった自分の欲を夏希ちゃんは二人で一緒に分け合いながら貪った…
絡めた唇をゆっくり離すと夏希ちゃんは息を切らしてあたしを見つめる…
「まじにゲロマズイ…──」
「………」
見つめ合うと思わず二人で笑い合う。
マズイを呟きながら二人で何度も唇を重ねて笑い、思いきり腕を絡めて抱き合った。
・
まったりとしたピロートーク。キスをしてふざけ合っていると夏希ちゃんは急に腰を浮かせた。
「きた…」
「変なのがお腹に…」
「だから変なのじゃないって」
夏希ちゃんは言いながら躰を起こした。
上に居たあたしを夏希ちゃんはゆっくりと下に押し倒す。あたしは上半身で起き上がった数日ぶりの夏希ちゃんの躰を眺めた。
なんだか急に男らしく引き締まった感じがするのは役作りの為に躰を造っているからなのだろうか──
「光源氏ってムキムキだっけ?」
古文に疎いあたしは今度のドラマの説明をする夏希ちゃんにそう聞き返したことがあった──
撮影が始まるまでの短期間で背中の筋肉を造りたいらしい。
なんでも背中からのカメラアングルが多い役なのだとか…
光源氏の話しなら有名だから少しは知ってる。
たしか……
平安の女たらし…?
なんて言われてたような…
物語りは美的に語られてはいるけど早い話が近親やロリコンや浮気や…
取り合えず女たらしの代名詞と言われるカテゴリーは片っ端から手を付けて回る遊び人──
だったはず…
背中からのアングルが多くて背筋を造りたい──とな?
てことは、そう言うシーンがあるわけだ…。
舞いを踊るからとかで日舞とクラッシックバレエのレッスン漬けだっていってたな……
「日舞はわかるけどなんでバレエ?」
「日舞は仕草造りだって。バレエは一番綺麗な筋肉がつくんだよ。光はムキムキじゃなくて優男だから自然な筋肉をつけて艶気だせって社長がうるさいから…」
「なる」
「躰できたら写真集だすって…」
「うわ、はずっ」
「俺も恥ずい…」
「……頑張って」
あちゃらの業界はよくわからん。
わからんけど……
今の夏希ちゃんを見て思う──
すごく色気が出てきてるから……