愛の天秤-9
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ねっとりと絡めた舌。
肉厚な根元までえぐるように夏希ちゃんは掬ってくる。
あたしの下半身の熱い内部に収めた猛りと同様に、夏希ちゃんの熱い舌があたしの口腔の奥深くを愛しそうに這いまわり犯していく。
夏希ちゃんはあたしの好きなキスを長く長く与えてくれる。
甘く情熱的なキスをしながら、あたしの締め付けを堪能するように夏希ちゃんの静かに収めた猛りは強い脈と鼓動だけをあたしの内部に伝えてきていた。
解放された唇から吐息が漏れる。
今だ果てを迎えていない夏希ちゃんの猛りはあたしの内部で脈を打ち続けている。
夏希ちゃんは夢心地のようにうっとりとしたあたしの頬を軽く摘まむように撫でていた。
「晶さん…行っておいで…そのかわりちゃんと戻って来て…──」
「ん…」
「戻って来なかったら俺が……──」
夏希ちゃんはあたしの頬を撫でながら言葉を途中で止めて唇をゆっくりと押し付けた。
見つめてくる夏希ちゃんの熱で瞳が潤んでる。
なに…
その代わり戻って来なかったら何するの?
殺しちゃう?
約束破ったらあたしを殺しちゃうのかな?
あたしは夏希ちゃんの綺麗な瞳に見つめられてうっとりとそんなことを考えていた…。
・
晶さんの果てきった表情が好きだ──
そう思いながら目の前の蕩けた顔を見つめて頬を撫でた。
「殺しちゃう?」
「……」
「約束破ったらあたしを殺しちゃう?」
「………」
尋ね返す言葉に思わず笑みが零れかけた。
かわいいから
仕方ない──
言っても聞かない人だから
同窓会に行くことは大目に見て上げるよ──
でもちゃんと戻って来なかったら……
俺が迎えに行くから──
それこそ貴女がドン引きするほど派手な登場の仕方で……
思わず驚きで脚がすくんでしまうほど派手な演出で迎えに行くから──
二度と同じ過ちを犯さないようにね……
その時は十分に思い知らせてあげる
俺の抑えきれない情熱をね……
「晶さん…」
相変わらず蕩けた表情で見つめてくる晶さんの頬を指先で撫でる。
「殺さないから安心して…」
「………」
「晶さんを殺す前にたぶん俺が死ぬ…」
「……──」
「俺、卯年だから寂しくて死ぬ…」
「……ぷっ」
「笑い事じゃないって…」
「ごめん」
上目使いで肩を竦めて詫びる。
・
「俺、たぶんマジに死ぬよ?マンションで独り寂しくて泣きながら死ぬ。孤独死しちゃうよ?」
「そのシナリオはまた切ないね」
「うん、だから死ぬ前に…」
「……」
「俺、迎えに行くからね…」
「迎えに?」
「うん、ちゃんと予定どうりに戻って来なかったらね」
「帰るよちゃんとっ!次の日はバイトもあるしっ」
「バイトの為に約束守るの?」
「……あ…」
「………俺って…晶さんの中で優先順位、何番目?」
「……、い、一番だよっ」
「………」
ため息が漏れる。
「今、…明らかに順番を組み替えたよね?」
やっぱりまだまだ愛が足りない…
晶さんの“すごく好き”な気持ちと
俺の“その何万倍も好き”な気持ち──
まだまだ愛の天秤は俺の気持ちの重さが勝ってる。
いつかは来るんだろうか?…
その天秤が真っ直ぐ均等にバランスを取れる日が…
この二人の間にやって来てくれるのだろうか……
恋は突然やってくる
なんの構えも準備もしていなかった俺に不意討ちの恋を仕掛けたのは、甘えた瞳で悪戯に小さな爪を立てる無邪気なメスの仔猫──
その仔猫は可愛い女だと隙を見せた途端、化けの皮を剥がし雌の虎に変貌する──
社長──あんたの言う通りだ。
これを飼い慣らすのは本当に厄介で命掛けだよ……。