エツコとオッちゃん-2
2.
寺に着くと、門前に住職が待っていた。
「とりあえず、お茶を飲ませて休ませていますが・・・」
エツコは、待合室の椅子に、一人でちょこんと腰を掛けていた。
「あっ、オッちゃん、来てくれたの」
エツコは歳の違う山路をなんと呼んで良いか分らず、オッちゃんと呼んでいた。
「うん、どうした」
「仕事の帰りに眩暈がして、歩けなくなっちゃったの・・・」
「病院に連れて行くから、・・・歩けるか?」
よろよろと立ち上がったエツコの腕を取って、抱えるように部屋を出た。
「今から病人を連れて行く、救急で頼む」
山路は、以前勤務をしていた病院にケイタイを入れて、車を発進させた。
若いインターンの医師が対応に当たった。
「最近は日本でも増えましてねえ、先生」
「何が?」
「アノレキですよ」
「摂食障害?拒食症か?」
医師を手伝って、エツコを裸にした。
下着の上に、セーターを4枚も着込んでいた。ズボンは3枚。
「アノレキの子は、痩せているのを隠すために、重ね着をするんです」
露になった胸元は、アバラ骨が浮き上がり、それでも幼児の手の平ほどに膨らんだ乳房に、ぽつんとピンクの乳首が乗っている。
骨盤も両足も、良くこれで生きているとびっくりするほど肉がこけていて、アウシュビッツのユダヤ人の死体の山が脳裏に浮かんだ。
エツコは強制入院になった。
食事は綿密なダイエット計画の下、食事の間は看護師が監視に付く。全部食べ終わるまで、やめられない。トイレに行くのも、看護師が付き添っていく。
シャーっと水洗の音がして、エツコが戻ってくる。
多分、今食べたものは、水と共に下水管に消えていったのだろう。
人前では食べて見せても、トイレに行って全部吐き出して仕舞う。
山路は、毎日エツコを見舞った。
エツコも、それを楽しみに待っている。