スキャンダル-1
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*ランチメニュー*
オムライスorきのこパスタ
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「これでオケ!と…マスター!!デザートはヨーグルトで良かった?」
「ああ、いいよ!」
喫茶店のランチメニューをプレートに書いて外に掛けるとセットメニューのサラダを準備する。
もうすぐお昼。忙しくなる時間が近付いて来ている──
整理の為に、ママさんが買ってきた新しい週刊誌と古い物を入れ替えながら、雑誌を束ねているとあたしの手が止まった。
おりょ!?──
今まで気にも止めなかった週刊誌に目が釘付けになる。
人気タレント 藤沢 聖夜──
美人歳上グラビアガールと御忍びラブラブデート!
「……美人歳上…ボンキュッボヨ〜ン……」
ふーん…
なるほど…
良く良く見たら、表紙はサングラス掛けた夏希ちゃんとボヨンガールじゃん…
興味なかったから今まで気付かなかった──
これのことか…ほとぼりって。。。
・
ゴシップらしいアホな見出しに目を通して内容をさらっと読む。
「んま〜…キスシーンまで激写されちゃって…」
自宅前なんだろうか?マンションの玄関先での濃厚なキスシーンがアップで載っている。
デートの日付まで事細かに書かれちゃって…
芸能人て──
大変だな…
何かやっちゃうとこうやって晒されちゃうわけだ──
隠れる場所が必要になるわけか……。
“充分間に合ってるから──”
「──っ…あれー…なんか微妙にムカツクなこのコンチキ野郎っ…」
「ん?どうした晶?古い週刊誌に文句垂れて?」
傍で新聞を読んでたマスターが老眼鏡をずらして週刊誌を覗きこんだ。
「これこれ、この記事!」
「ああ、藤沢ね…いっとき舞台ばっかで画面に出てなかったけど最近よくドラマに出てるな?前はシェフか何かで主役だったし…」
・
そういえば料理のドラマに出たって言ってたな?
「親戚の事務所に所属だろ?知らなかったのか?」
「知らない…興味なかったし…」
うちに来るまではね…
「やっぱモテるのかな」
「そりゃモテるだろ?」
むーん…
早漏のくせに──っ…
……やっぱモテるのか
手練れだしな…
早漏だけど…
売り出すってこのグラマーな子のことか?
協力って一体どんな?
マンション前でキスするような協力ってなにさ?
撮影でもないのにこんな濃厚なキスまでしちゃうんだ?
写真に収められた二人の熱々ぶりにちとムッとくる。
細い腰に回った夏希ちゃんの腕はしっかりと彼女を抱き寄せていた──。
回されている腕を見つめてセックスの最中の夏希ちゃんの色んな表情が頭に浮かぶ。
泣きそうな顔とか
色っぽい顔とか…
協力──か…
あらいやだ、ムカムカチックが止まらない──
「お、もうそろそろランチの準備するか!」
マスターが腰を上げた途端、昼一番乗りの常連客がやってきた。
「いらっしゃいませ」
「お、晶ちゃん今日はバイトの日だった?」
常連客の高田さんが席に付ながら声を掛けてくれた。
「今日はなんにしようかな」
「高田さん、今日はブルマンにしなさい、ブルマンに」
「面白いやつだな?なんで晶ちゃんが決めるんだよ俺の飲み物をっ」
マスターがカウンターの中で笑っている。
「今、晶はブルマン煎れる練習してんだよ」
「なんだ練習台か俺は──」
「そう、高田さんはこれから当分ブルマン決定!」
「しょうがないな…じゃあブルマン一つとミックスフライセット」
「あざーす!」
ニコニコ顔で注文を承った。あたしはマスターに教えて貰ったとおりにブルーマウンテンを煎れる。
・
「やふーい!」
次なる常連さんがやって来た。
「やーん、晶ちゃん今日いたの〜?相変わらずいい乙男(オトメン)ね!」
昼間っから抱き付いて抱擁を交わす。花のOLを遥かに越えた43歳、会社では今やお局様ではなくご家老様と呼ばれてるらしい、春子さん。
「あら高田ちゃんもう来てたの?」
軽い抱擁を済ませるとカウンターのいつもの席を陣取って高田さんに話掛けた。
「春姉、今日のランチはオムライスか、きのこパスタだよ〜。どする?」
「オムライスでいいよ」
「春姉のはあたしが作る!」
「うそ嬉しい〜…もちろん200円引きだよね?」
こらこら!
カウンターのマスターにずずいと近より値段交渉する春姉をあたしは止めた。
「だって晶ちゃんのは半熟オムライスじゃないもん」
「半熟だよ!!練習したから。オムライスって火加減めちゃ難しいっ…」
「そりゃそうよ、簡単に見えて上級メニューじゃん」
カウンターで脚を組むと春姉は声音を変えて張り上げた。
「オムライスを征する者はっ──恋も征するのよっ!」
まるで舞台役者だ。
始まった…とばかりにマスターも高田さんも笑ってる。