スキャンダル-4
「快適に暮らせてるなら言うこたないが、楠木とは連絡取り合えよ!」
「わかったよ」
「あと、当分女がらみのスキャンダルは注意してくれ、今回のでっち上げが無駄になるからな!」
「…──…っ…」
「頼むぞ!!」
「う…わ、かってるよ…」
念を押されて電話がプツリと途切れる。
「………」
微妙に焦りが浮かんだ。
スキャンダル関係全般──
当分は御法度だな…
じゃなきゃ…
俺とデキてるなんて知れたら晶さんが巻き込まれる──
彼女は一般人だから
スキャンダルを踏み台にして乗し上がろうとする芸能人達とは違うから──
「冷凍のシャケがあったよな、バター蒸しにするかな……」
時刻を今一度確認するとふと浮かんだ今夜のメニューを俺は呟いた。
・
守りたい人ができちゃったから──
これからのことをつい真剣に考える
これって進歩?
仕事だけこなしていればよかった生活から一変して
それ以上の色んな物事を想像する
俺の気持ちは君に向かってる
初めて乗り込んだ行き先未定のバスみたいに
揺られてるあいだずっとドキドキが止まらない
今の俺は正しくそんな状況
君はいったいどこのバス停で待っていてくれてるんだろう──
「…なんて…俺って詩人?ポエマーだな…」
自分の感情に浸りながら解凍したシャケをアルミに包む。
冷凍されたシメジを振りかけたらバターと調味料で味付けしてオーブンへ…
出来上がるまで、彼女がどんな顔して料理を眺めるかを想像しながら俺は電子レンジを見つめていた。
・
ガチャ──
「──…っ…あ、びっくりした…」
背後で音がして振り向いた瞬間驚いた。
何時ものただいまの言葉がなかった為に、気配だけを感じて気持ちちょっとだけびびった。
彼女は玄関先で靴を履いたまま鼻をクンクンさせている。
「なに作ったの?」
無表情で聞いてきた彼女に少し戸惑った。
俺の想像だともっと“うわー”とか“あれ〜?”とか言ってニコニコしながら尋ねてくる姿を思い描いていたわけで、どこかしらテンションの低い彼女の様子が少し引っ掛かっていた。
「シャケのホイル蒸し作ったけど食べる?」
絶対食べるっていうと思って作ったけど……
彼女は相変わらずなテンションだ。
「バター使った?」
「うん」
「………」
お昼前の賄いがオムライスでバター
五時の賄いがきのこパスタでバター……
部屋に帰ってバターの匂いに包まれる──
胃から込み上げてくるものがある。。。
「賄い五時に食べたから今日はいらない…」
「……そ、か」
あれー…
なんかショックが……
笑顔が見られなかったことに膝から崩れ落ちそうな打撃を受けた気分だった……