〈不穏な空気〉-3
『……亜季ちゃんは僕だけの物だ……僕は亜季ちゃんの〈お兄ちゃん〉なんだからな……』
引っ詰め髪の男は長髪男に寄り添うと、肩を抱いて耳元に唇を寄せて囁いた。
『そうだよ、亜季は最初から君だけの物なんだよ。君だけの可愛い《妹》じゃないか?二人の想いは誰も邪魔なんか出来ないんだ……』
仲間同士の亀裂に意見をせず、しかも煽るような同調を囁くと、引っ詰め髪の男は部屋を出ていった。
そして廊下を隔てて向かいあうドアを開けると、萎れた肉棒を鮮血に染めた首謀者に手招きをした。
『……ん?なんだ、俺に何か用か?』
首謀者は下半身に走る心地好い痺れにフラつきながら、手招きに従って歩み寄った。
『あ、あのさ、愛ちゃんともう一発ヤッてイイかな?』
『……乱暴に扱うなよ?まだ始まったばっかなんだからな』
尽きる事を知らない性欲に軽く呆れながら、しかし、“大切”にしたい愛を好きにされてしまう事に不満を覚えていた。
こんなにも好みのド真ん中な美少女を、首謀者は他に知らなかった。
長髪男と同様に、首謀者も愛を我が物にしたいという欲望を抱き始めていたのだ。
叶うならば独占したい愛に対する無遠慮さに少し苛々しながらも、古くからの仲間だからと首謀者は其れを許した。
『柔らかくてスベスベしてて……アハッ…愛ちゃん大好き……』
『オイ!キスはすんなよ。ファーストキスは俺が貰うんだからよぉ』
背後から抱きながらネチネチと愛の頬にキスをしだした小肥りオヤジに、首謀者は少しだけ声を荒げた。
本心から言えば、ずっと愛の傍に居たかったのだが、この監禁部屋を用意してくれた男に呼ばれたのだから、それを断るわけにはいかなかった。
渋々ドアを開け、そして呼ばれるがままに向かいの部屋へと入る……そこには少し険しい顔をした長髪男が立っていた……。
『……なあ、どう思う?』
長髪男は不機嫌そうに顎を振りながら質問をした。
それは向こうの監禁部屋にいる小肥りオヤジの事を指しているのに違いなかった。
『どうって……仲間だろ?』
『そうじゃなくてさ……“解る”よね?』
首謀者はピンときた。
飼い主を差し置いて、一番美味しいところを頂いていく“アイツ”はどうなのか?と、聞いているのだと。