「ウソをつくつもりだった」-5
『手術をしてもしばらく君に会えないみたいだから、手紙を書くね。
手術が成功したら、一番に君に知らせるよ。残念ながら、手術は失敗しましたって。
だってエイプリルフールじゃん。ウソを言っても許される日だから許してね。
君は怒るかな。泣くかな。笑うかな。想像できないよ、早く会いたい。
あと、もし僕になにかあっても僕のこと忘れないでね。忘れられるのはさみしいから。
好きです。ウソじゃないよ。エイプリルフールは関係無しで。』
バカだよ。あたしもだけど、あんたも相当だよ。
死んだら、何も意味無いじゃん。思い出に変わっていくだけだよ。それはすごく恐い。
あたしは泣いていた。なぜか手術は成功するとしか思っていなかったのだ。
心の準備なんてまったく出来ていないまま、彼は突然あたしの前からいなくなった。
泣いた。大声で泣いた。
彼がこの世界にいないことが悲しくてしょうがない。
嘘でしょ、ほら、今日はエイプリルフール。
怒らないから出てきてよ。どこかに隠れてあたしの反応を見て楽しんでるんでしょ。
だから、出てきてよ。
あたしあんたが出てくるまで絶対泣きやまない。あたしが泣くのは、あんたしか止められない。
今まで生きてきて、
こんなに悲しいことは無かった。
「だからゴメンね、伸二。あたし、健太くんはどうしても忘れられない」
伸二はゆっくりあたしの頭を撫でた。
伸二に話したことが良かったかは分からないい。
でもあたしのなかで何かが少し楽になった。
伸二が撫でてくれる手の感触に安心した。
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それは、彼がこの世に生きていたとても愛しい証。
外から聞こえていた雨の音は、いつしかやんでいた。
そのことにあたしは気付く。少し寂しくて、少しほっとした。