「ウソをつくつもりだった」-3
「言ったらひくよ」
「ひかない」
「伸二はあたしのこと最低の女だって思う」
「思わねえよ」
そんなやりとりが何回かつづいた。
言いたくない気持ちと、言ってしまいたい気持ち、両方あった。
でも言ってしまえばすべて壊れるような気がした。
今まで隠していた思いを喋ることで過去のことにして、楽になりたい自分がいるような気がしていた。
そんなことは無い、と思う自分と、それが本音かも、と思う自分がいた。
そして、伸二を失う恐怖があった。
「言いたくないなら無理には聞かん。けど、いつでも聞くから」
彼はそう言って立ち上がろうとした。あたしは彼を呼び止めていた。
「11041のこと聞いて」
今なら言えると思ったから。
「誰にも言ってないけど意味があるの。」
彼が無言で座りなおす。
「元彼の誕生日と…――」
少し、あたしの声は震えていた。
「命日」
「あの人は1月10日に生まれて4月1日に亡くなったの」
ここまで一気に言った。あたしは彼の顔が見れなかった。
嫌われてもしょうがないと思った。それでもあたしはこのメルアドをきっと永久に変えることはないだろう。
あたしはこの元彼を永遠に覚え続けるから。
「初めての彼氏だった」
彼は相づちもうたなかった。ただ、あたしの話を黙って聞いていた。
彼が何を感じているのか、あたしには想像がつかない。