朝凪-4
ずっとずっと話していたいけど。
ゆっくりとゆっくりと時間は経って、
ゆっくりと、でも確実に時間は経って。
あたりが漆黒の闇に薄いオレンジ色が混ざってきた。
海風はぴたりとやんでいた。
「ナツ。好きな奴は出来たか」
この話が始まると。この時間は終わりに近付いていることを意味している。
ずっとずっとこの時間が、終わらなければいいのに。
「ナツ」
それでも私の返事を待つ博之に
「好きな人、出来たよ」
そう静かに告げる。
「そうか」
博之は寂しそうに、ほんの少しだけ嬉しそうにそう言った。
「その男に決めた理由は?」
「・・・10年以上、私と一緒にいてくれるって約束してくれたから」
「・・・・・そうか」
そう。その一言を言われた時、私は泣いた。
10年以上、私と一緒にいて。
「そろそろ夜が明けるな」
海は朝凪で。
風もなく、波もなく、そこは海ではないかのように静かだった。
「好きな奴が出来たらもう会わない。この約束は覚えてる?」
海の方を見ながら博之が言った。
「うん」