前編-3
・
「うふふ…ごめんなさい。こっちよ…」
え!?…
高い位置から聞こえてきた声の方に目を向けると、舘の二階のバルコニーから一人の女性が口元を抑えながら微笑む姿が望めた。
「貴女、花が好きなのね…いつもそこで立ち止まっていらっしゃるでしょ…」
「あ、のっ…」
その女性の言葉に私は急に恥ずかしくなった。
いつも…って…
じゃあ毎日見られてたってこと!?
「あら、もしかして、お気を悪くしたかしら?…」
「いえ、別にそうではっ…」
つい、恥ずかしさに黙り込んでしまった私に気を使い、その人は私をお茶に誘ってくれた。
「ほんと素敵なお庭ですよね…」
私はそう言って三口目のお茶を口に含んだ。
お洒落な洋物の椅子に置いた、スーパーのビニール袋がまったく浮いている。
私はそれを視界から排除するようにガサッと抑えこんだ。
ほんとに素敵な…女性(ひと)
女の私から見ても溜め息がでる。
同じ女でこんなにも違うの? 神様ってほんと不公平…
素敵なティーカップを持つ自分の指先に思わず目がいく。
最近、手荒れが酷い…
洗剤だって奮発してイイ奴に代えたのに…
きっとストレスだ……
思わず姑の顔が浮かびつい、チッと小さく舌を打つ。