【とある建物、その一室にて】-1
かちゃりと金属が何かとぶつかる音が暗く、湿った狭い部屋に響く。
その音の発生源である細い鎖、そしてその鎖のつながった首輪は異様に耳の長い女性の首にはまっていた。
その女性は元は美しかったであろう金色の髪でこれまた汚れてはいるものの美しく整った顔を隠すように椅子に座っていた。
いや、正確には座っていたわけではない、椅子に固定されているといった表現の方が正しい状況だ。
今の人類が見たらすぐにその場から逃げ出しそうになるその光景はそこにいるのがエルフでなく人間でも異常に写ったであろう。
衣類は所々に黒ずんだ血痕のあるキャミソール、首には強く締められた後が青あざとして残り左の頬は何度も殴られたように赤く腫れ上がっていた。
体からも腐ったような臭いがただよいここに拉致監禁され暴力を振るわれていることは明らかだった。
「やぁ、おはよう。 いや君にとってはこんばんはかな?」
一人の白衣を来た男がいきなり部屋に入ってきた。
その白衣の男はポケットから注射器を取り出し女性の腕に突き刺す。
血を抜きとりながら男がしゃべる。
「人工エルフ、素晴らしいとは思わんかね? 喜び給え、君は素晴らしく運がいい。 なぜならその素晴らしい研究の素材となりえるのだから」
男の言葉が暗い部屋にこだまするがそれに答えるものは誰もいなかった。
血が注射器いっぱいになりそれが女性の腕から抜かれる。
そして男はその血を再びポケットに仕舞い部屋から出て行った。
「……し……たい」
女性が最期にポツリと何かをつぶやくがそれが男の耳に届くことはなかった。