unripe fruits-9
だが次の瞬間、桜井の唇が俺の頬に触れた。
驚いて彼女を見ると、真っ赤な顔で目を泳がす照れた顔。
「……や、やめないで」
振り絞ったその声は、自信なさげに弱々しかったけれど、確かに彼女はそう言った。
そして黙り込む俺達。テレビの音声はすでに遠いものとなってしまった。
その沈黙を破ったのは、桜井の方だった。
「野々村……、こんなタイミングで告白したらやっぱりひく?」
「は?」
今、何つった?
俺の空耳かと桜井を見れば、彼女は相変わらず目を忙しなく泳がせつつ、
「あたし……野々村が好きなの」
と、さっきより少し大きな声でそう言った。
そして一瞬間を置いて。
「……はあああ!?」
俺の声が部屋中に響き渡るのだった。
思わず身体が仰け反って後ろに倒れそうになる。
驚愕で口をあんぐり開けたまま固まっている俺を、彼女は軽く睨みつけた。
「そんな驚くことないでしょう!?」
「だって……お前……そんな素振り一つも……」
だって、あの桜井が。
ダサくて恋愛からかけ離れたガリ勉で、不真面目な俺にいつも突っかかるウザい桜井が、俺を好き!?
しどろもどろになってある俺に、呆れたようにため息を吐く桜井。
癖なのか、おさげの毛先をいじりながら下唇を突き出してむくれる彼女は、いつもの小憎たらしい桜井そのものに戻っていた。
だけど。
毛先を弄るその腕によって強調させられている谷間が。
白い肌に影を作って居る色っぽい鎖骨が。
くびれたウエストラインが。
そして、俺を見つめる潤んだ瞳が。
さっきの乱れた桜井の姿に重なって、もっともっと彼女を知りたいと単純に思った。
喧嘩ばかりして、どっちかというと嫌いな人種だったけど、それは桜井のほんの一部。
俺に突っかかるウザい桜井は、きっと未熟な果実のようなものだろう。
食べたらきっと青くて苦くて、だけどきっと、癖になる。
きっと桜井はそんな感じだ。