unripe fruits-14
◇
「野々村、お前桜井と付き合うの!?」
友人の酒井が驚きで目を開いたまま、固まってしまった。
おいおい、そのまま目ん玉飛び出しそう。
呆れながらに頬杖ついた俺は、
「ん、まあな」
と、素っ気なく言う。
穏やかな日差しが注ぐ、昼休み。
視界の端では、奈緒が友達と談笑している姿が映る。
酒井は、そんな奈緒と俺を数回まばたきしては、と見こう見を繰り返していた。
意外過ぎて言葉が出ない、そんな所だろう。
俺達はあれから付き合うことになったのだが、いかんせん恋愛ビギナーの俺達だ。
人前で話をするのはなんだか照れ臭くて。
結局学校で顔を合わせた時には、以前の通り『桜井』『野々村』と呼び合って、なんとなくよそよそしく振舞ってしまっていた。
そんな俺達だから、付き合ったと酒井に報告しても信じられないのかもしれない。
「しかし、お前があの地味子とねえ……。桜井の何がよかったわけ?」
それを聞かれると言葉に詰まる。
奈緒にはいい所がたくさんあるんだ。
実はお菓子作りが趣味で、彼女が作ったクッキーやケーキがめちゃめちゃ美味いってこと。
実は音楽の好みもすごく合うってこと。
そして、身体の相性がめちゃめちゃいいってこと。
そんな惚気をしたいのはやまやまだけど、知らない所ではイチャつきまくっているというのは、恥ずかし過ぎて、いくら酒井でも言えなかった。
「ま、おっぱいは大きいけど、あの桜井がそう簡単にヤらせてくれるわけがなさそうだしな。キスまで辿りつくのすら何年もかかりそう」
そう言って、酒井はこっそり奈緒の方を指を差す。
俺は曖昧に頷くしか出来なかった。
そう、奈緒のイメージから、酒井はきっと俺達をプラトニックな純情カップルだと決めつけている。
確かにそう思われても仕方がない。
勉強しか興味がなさそうな、マジメでダサい奈緒と、小学生が身体だけ大きくなったようなガキの俺。
そんな俺達が、付き合っていることをいつか皆に知れ渡ることになっても、青臭いままごとカップルって思われるだけだと思う。
でも、そう思いたきゃ思えばいいんだ。
ふと、奈緒と目が合い、俺は咳払いを一つしてから彼女に笑いかける。
それは、今日の放課後、秘密のデートの合図。
ーーあんっ、猛……っ、いい……!!
ふと、奈緒が俺の腕の中で乱れる姿を浮かべてしまい、ニヤけてしまう。
「野々村、まずは一緒に帰るとこから始めてみたら?」
何も知らない酒井は、恋愛ビギナーの俺に得意気にアドバイスをする。
それがなんだか滑稽でたまらなかったが、
「ああ、努力してみるよ」
と、素直に頷いた。
でも、それでいいんだ。
みんなが俺達を未熟な果実と思っているかも知れないけれど。
それは、食べてみるととても甘くて病みつきになるのだからーー
完