Deep Kiss & Surprise-3
「ああ、美味しかった。さすが、一流グルメライターがおススメするお店だけあったね」
お腹をポンポンと叩くような仕草がなんともコミカルに見える。こういったおおらかな所も絵美の魅力なんだと分かってきた。ちょっと天然ぽい所もあるけれど、しっかりと自分の意見を持っている意思の強い女性なんだと思える部分もある。
「別に一流でもないし、そもそもグルメライターじゃないんだけど」
「でも、色々なことを知っているっていうのはスゴイことだと思うよ。わたしなんて、世間知らずだから恥ずかしくって。でも、ここはお世辞じゃなくって本当に美味しかったよ」
魚介をふんだんに使った海鮮パスタのランチにご満悦の絵美を見て、とりあえずホッとした。男として、編集者の端くれとしての『カッコつけ』の部分が保たれたような気がしたからだ。
「次はどうしようか？ここの水族館はけっこう有名なんだ。イルカのショーも人気があるんだよ」
「そうだなぁ・・・水族館って何時までやってるの？」
「うーん・・・遅くに行くことなんて今まで無かったから、気にしたことも無かったよ。多分、６時くらいまでやってるんかなぁ！？」
「今２時半でしょ。今日はお天気もいいし、せっかくだから外をお散歩したいなぁ」
「それなら、海沿いに大きな公園があるんだ。いくつかあった海沿いの公園や施設を総合して新たにシーサイドパークっていう海浜公園になっているんだ」
絵美の真意は、公園を手つなぎデートがしたいのだった。あわよくば、キスしたい気持ちも溢れている。もし、それ以上のことを求められても、拒むことは無い。むしろ積極的に慶一郎の欲望を受止め、奉仕することをいとまない。それが屋外であっても。
元カレ浩也の要望にはどんな性行為であっても受け容れた。それは、浩也を離したくないという一心から来るものであったけれど、その裏側で『絵美の好奇心＝ドスケベ』が働いていたことも事実だ。それは絵美自身も気付いている。『わたしはスケベ』なんだと。
それは浩也とのＳＥＸの際にもずっと思っていた。オナニーを強要された時も、恥ずかしさもあったが、それ以上に興奮の方が断然上回った。
一人で行う自慰行為は、本来他人に知られると恥ずかしいことであって、決して見せるために行う行為ではなかったはず。当然、見られたくないという気持ちがある。半面、そのような秘め事だからこそ、知られた時の羞恥心が興奮につながるのかもしれない。
浩也の目の前で、自らオマンコのヒダを左指でＶの字に広げ、ニチャニチャといやらしい音を響かせながら見せつけるように二本の指を膣穴に出し入れし、絶頂に達したことを思い出す。それ以降も、人前で自分のいやらしい行為を晒すということを想像しただけで、股間を濡らし、頭がクラクラした。
「どうする？公園に行く？」
少しの間だったが、僕の声が耳に届いていなかったようだ。
「どうしたの気分悪くなった？」
久しぶりの外出となった絵美がちょっと心配だった。
「ううん、大丈夫。ちょっとどうしようか考えていただけ」
首を振った絵美だったが、ボーっとしていたのは、自分のはしたない妄想のせいだとは口に出せるはずもなかった。
「やっぱり外がいいなぁ」
「ＯＫ、その公園にしよう」
二人は車に乗り込むと、シーサイドクルージングを楽しんだ。
「これが水族館？」
しばらくすると、大きく近代的な建物が目に入って来た。
「そう。昔は、街の水族館って感じでここまで大きくなかったんだけど、何年か前にここら辺一帯の大規模リニューアルがあって、その目玉として大型の水族館に造り替えたんだ」
沖縄の美ら海水族館ほどでは無いけれど、かなり巨大な水槽が設置されている。イルカのショーも評判で、週末には駐車場が早々に満車となり、行列が出来るほどだと言う。今日も水族館前の駐車場は評判通り満車であった。
「あー満車になってる。どっちみち無理だったね」
「駐車場は他にもあるから、歩いて来れば入れない事もないよ」
「えー歩くのはちょっと勘弁かなぁ。また、別の日に来ようよ」
「そうしようか、遅くに入っても、外出門限に間に合わなくなっちゃったらまずいもんな」
「そーだねぇ・・・」
絵美は門限時間の話になると、何故か不敵な笑みを浮かべた。
その微笑みに慶一郎は気づいていなかった。
シーサイドパークには、元々複数の施設の集合体だけにいくつもの駐車場がある。メインの駐車場は、週末ともなると水族館と同様に行列が出来るほどの盛況であるが、いくつかはあまり知られていないこともあって、満車になることは稀である。
この日は、８割がた埋まっていた。何かイベントごとがあるのかもしれない。総合公園になって、使い勝手の良さからイベントの開催会場として使用されることも多い。
「結構広いんだね」
「そうだね。行こうと思えば、さっきの水族館まで遊歩道が続いているから、行こうと思えば行けないことは無いね」
「おんぶしてくれるんだったらいいよ」
悪戯っぽい笑顔で小首をかしげた姿がキュートだった。
「う〜ん」
考えるフリをしながら、頭の先から足元まで眺める。
「う〜〜ん」
「ちょっとぉ、体重重そうって思ったでしょ」
悪戯っぽい笑顔から一転ぷぅ〜っとふくれっ面になった。この顔も可愛らしい。
そして、「もう、失礼な奴め」と言って、軽くポカポカと叩いてきた。その一連の流れで、僕はそっと絵美の手を握った。一瞬ビックリとした表情を浮かべた絵美だったが、ふんわりと微笑み、手を握り返してくれた。
手を握った二人はブラブラと遊歩道を歩いた。それにしても客が少ない。週末に何度か取材に来たことがあるけれど、これほど空いていることは初めてだった。
「ちょっと疲れちゃったかな」
入院中の絵美には、休憩なしの散歩は酷だったろうか。林の一角に、東屋風の休憩施設があったので、並んで腰を下ろした。