光の風 〈帰還篇〉-1
(ここはどこだ?)
気付いたらそこは一面に広がる草原だった。青くきれいな空、吹き抜ける風は妙に心地よい。
辺りを見回しても、そこには自分しかいなかった。ぼんやりとした意識の中で男は立ち尽くす。気力もなく、まるで風景に溶け込むようにそこにいた。
いつからそうしているのか、それさえも分からない状態だった。
「お前、何者だ?」
ふいに現れた声に男はゆっくりと反応した。声の主の方に身体ごと目をやる。
そこに居たのはカルサ・トルナス。この国の王でもあり、太古の神々の一人、雷神の末裔でもある人物だった。しかし、男はそんなこと知る由もない。
カルサの身を包む高貴な衣装に身分の高い者という事が、かろうじて分かるくらいだった。しかしおそらく、そこまで頭は回っていないだろう。
ただぼんやりと、カルサを見ていた。
「外部からの侵入があったかと思えば…。お前、この国の者ではないな?」
攻めるわけでもなく、責任としてカルサは男に問う。男は一度辺りを見回した。その動作全てがゆっくりとしている。まだ意識がはっきりとしていない事がカルサにも分かった。
「…ここは…カリオじゃない。…ここは…どこだ?」
まるで独り言のように呟いた。その声には淋しさが見える。カリオはそんな男の様子から、少しずつ距離を縮め歩み寄った。
「ここはシードゥルサ。お前、一人で来たのか?」
一人、という言葉に男は反応した。意識が徐々に自分の所に戻ってくる。虚ろな目はやがて輝きを取り戻した。
「…違う、オレはあいつと二人で…。」
「…お前の他に人など居ないぞ…?」
カルサの言葉に男はすぐ辺りを見回した。何回も何回も、自分以外の誰かを探した。しかし広がるのは雄大な景色、その中に目に映る人などいなかった。
いるのは、ただ自分とカルサだけ。
「あれ…?」
ふいに涙が男の頬をつたう。ぬぐってもぬぐっても、涙は止まる事無く溢れるばかりだった。その涙が生まれた理由は喪失感からか、孤独からか、それは分からないが今彼には差し伸べる手が必要だった。
カルサは男をただじっと見ていた。
やがで空がうなり、雨が二人に降りかかる。突然の気候の変化に男の涙も驚きから止まったようだった。
空を仰ぎカルサは呟く。
「雨が降ってきたな。…帰るぞ、来い。」
「え…?」
「侵入者を放っておくわけにはいかない。早くしろ。」
カルサはそう言うと先に歩き始めた。男は一瞬あっけにとられたが、すぐに後を追った。