光の風 〈帰還篇〉-9
《人間…強い人間…》
暗くても分かる。魔物の目は明らかに二人をとらえていた。まるで見定めるようにして、同じ言葉を繰り返しそこから動かない。
「例え、お前に戦意がなくてもオレは容赦なく切るけど？帰りな、ここはお前の住む場所じゃない。」
貴未の言葉に魔物は反応した。少し黙っていたと思ったら再び口を開く。
とっさに持ってきた剣を構え、二人は魔物の前に立った。
《強い…人間…雷神か？》
「確かにオレ達は強いけどな、あいにく人違いだ。雷神に何の用だ？」
貴未の目付きが鋭くなる。構えた切っ先は下がり、切り込む態勢をとる。
《強い…人間…雷神殺す…強い…人間…お前達も殺す！！！》
その瞬間林の中から木の根っこの様なものが複数現れ、二人に襲い掛かった。伸縮自在なのか、ぐねぐね曲がりながら向かってくる。
貴未は紙一重でかわし、聖は剣でかわし進行方向をずらした。ふと本体を見ると、林から飛び出しいくつもにわたる木の根が自らの腕だということが分かった。
「元たたくで！」
「おお！」
聖は飛び出し、勢い良く剣を振り落とした。それと同時に魔物の片腕が落ちる。間髪いれずに反対側の腕も振り返り際に剣を叩き上げ本体から切り離された。
魔物の悲鳴が辺りに響く。
《ぎゃああああ！》
お構いなしに貴未が胴に切り掛かり、体を真っ二つに裂いた。
止まぬ叫び声と共に魔物は倒れ、やがて辺りは静けさを取り戻した。
「しょぼい。」
貴未の呟きに反応する事無く、聖は亡骸を見ていた。
瞬間、聖は駆け出し勢い良く貴未をかばってその場に倒れこむ。それと同時に巨大な水の固まりが凄いスピードで魔物に直撃し、跡形もなく消してしまった。
「な…んだぁ？」
驚き唖然とする貴未とは打って変わって、聖は起き上がり一点を見ていた。
それは上空にある人影。マントを頭ごと羽織っていて輪郭はいまいち分からないが人だと聖は確信していた。
「お前か、こいつ入れたん。何者や？」
そこにいるだけで分かる。かなりの力を持った者。貴未も起き上がり、相手の反応を待った。
《敵って事くらいわかるでしょ？》
その言葉を聞いて二人は驚きを隠せなかった。高く可愛らしい声。
「女…の子…？」
貴未が思わずもらしてしまった言葉に少女は笑った。笑い声は辺りに響き、二人の心臓にまで響いた。