光の風 〈帰還篇〉-7
自室でベッドに寝転がりながら貴未は窓の外を眺めていた。
天気はいい。快晴とまではいかないが、部屋の中にいるのはもったいないくらいだった。だが彼の表情は曇っている。
「界の扉…か。」
そう呟いてまた空を眺める。どこか遠い目、貴未の意識はこの国にはなかった。頭の上で組んでいた腕を外し、自分の右手を眺める。そして拳を握った。力強く、爪がくいこむほど握ったが表情は変わらなかった。
掌から赤い血が流れる。
「あの時この力があれば…。この手を…。」
握り締めた手をゆっくりと開く。悔やんでも仕方ないのに悔やまずにはいられなかった。
貴未はただ無心に血の流れる手を見ていた。どうする訳でもなく見ていた。
しばらくして部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「貴未?オレや。」
「…聖?どうぞ。」
ドアが開き、軍服を脱いだ普段着の聖が入ってくる。意外な来客に貴未は上半身を起こし聖を迎え入れた。
「びびった、珍しいじゃんか。聖がオレの部屋にくるなんてさ?」
「せやな。」
聖はベッドに腰かけ、貴未を見た。そして掌から流れ出る血に気付き、表情を変えないまま淡々と話した。
「何やっとったんや?んな血ぃ流して。」
「あ、これ?気合いよ、気合い。」
貴未は右手の傷を見てお茶らけて答えた。そんなのが嘘な事くらい誰にでも分かる。
「今回も帰れなかったな〜悔しいな〜えい!ってなもんよ。」
「ここにおるっちゅー事は、そういう事やな。」
「言ってくれんじゃん。」
そう言いながら貴未は立ち上がりタオルで右手の傷の血を止めるようにまいた。
「自分、次元を渡ることができるんやろ?調査員の仕事て、この次元外に何を求めてんねや?」
聖の質問に貴未は答えず、ただ視線だけを彼に合わせた。その表情はさっきまでのものではない。
「自分、界の扉を自由に使えるんか?」
少し貴未の眉が動いた気がしたが、表情は変わらなかった。聖はまっすぐに貴未を見て様子を探る。
「!!」
その瞬間、二人の間に緊張が走った。嫌な気配がする。同時に二人は窓の外を見た。様子を伺うように、黙って気配を探る。