光の風 〈帰還篇〉-5
リュナはもう一度おじぎをし、彼らを見た。
「紹介しよう、諸君らが遠征の間に我が国に舞い降りた神。風神リュナ・ウィルサだ。」
軍人達は驚きの声を上げた。彼らの前に立ち指揮をとっていた男もさすがに驚きを隠せなかった。
「御剣が一人、風神リュナ・ウィルサと申します。」
まっすぐ向けられた視線に軍人達は釘づけになった。
「皆様が遠征の間、勝手とは思いますが、国王陛下の慈悲によりこの国に住まわせていただく事になりました。僭越ながら皆様の無事の帰還を祝って…。」
そうスカートの裾を両手でつかみ、おじぎをしながら言うと、リュナは右手をゆっくり前に差し出すように空に掲げた。
誰もが彼女の右手に注目する。
やがて強い風が一気に一同の間を駆け抜けた。女官や、民たちの小さな悲鳴が聞こえる。すると空からひらひらと花びらが舞い降りてきた。
淡い色んな色の花びらがたくさん、その場に居た者達に降りそそぐ。自然と皆、笑顔になっていた。
「この花の雨を贈り物とさせていただきます。」
そうリュナは言い、また深々とおじぎをしてみせた。やがてどこからか拍手が聞こえて、当たり前のように皆が拍手をし始めた。
会場全体が拍手に包まれる。思わぬ反応にリュナは顔を赤くし、カルサを見た。カルサは優しい笑顔でリュナに応え、手を差し出した。
ほほ笑み、その手を取って二人は並ぶ。
軍隊の帰還、風神のお披露目式は見事に人々の心に残るものとなった。
大広間には帰還した軍人達の為に食事が用意されていた。無事の帰還を祝って、重役たちも参加しての食事会が開かれる。
カルサの姿はもちろん、リュナ、秘書官のサルスも参加し、大掛りのものとなった。
「堅苦しい挨拶は抜きだ。よく戻ってきてくれた、思う存分騒いでくれ。」
秘書官サルスの言葉を合図に一斉に皆が食事を始めた。酒が入るにつれ、ふざける者や騒ぐ者も現れたが、今日ばかりは大歓迎だった。
長期に渡る辛い任務に耐えた軍人達を癒し、楽しませるのが今日のカルサの役目だった。そんなカルサに近づいてきた軍人が酒のビンでグラスを空けるように促した。
「カルサ。」
「おう。」
カルサはグラスを空け、差し出した。片手で酒を注ぎ、二人の視線はグラスに集中した。注ぎおわるとビンとグラスで乾杯をし、お互いが飲み干す。
「長い間ご苦労だったな。聖。元気そうでなりよりだ。」
聖と呼ばれた男はほほ笑みながら、飲み干したビンをカルサのグラスにあててみせた。帰還式で代表挨拶をした人物こそが彼である。
「なんて事あらへん。まあ、ええ旅ができたゆうこっちゃ。」
聖は落ち着いた雰囲気で答えた。全く変わらない聖に安心したのか、カルサの表情はやわらかかった。