気づいちゃいけない-1
そんな私たちのありふれた日常に、吹き荒れる春一番。まるで季節の変わり目を告げるような出来事が起きた。
――ねえ知ってる?3年の春風先輩がさ、藤枝啓太に告白したんだって!
三度の飯より噂好き。女子更衣室では朝からその話題で持ちきりだ。
3年の春風先輩と言えば、黒髪美人で名の知れた、校内きっての優等生。色白でスタイルも良く、女の私でさえ目を惹かれるくらいの生粋の美少女だ。
そんな非の打ち所のない先輩に告白なんかされたら、啓太ならずとも二つ返事でOKするのが普通。
私は穏やかな笑顔で噂話に花咲かせながら、内心どこか曇り空の自分に困惑していた。
放課後、私は家に帰り着くや机にもつかず、どこか投げ出すようにベッドへと体を沈めた。
勉強なんて手につかない。大好きな音楽を聴いてもなんだか心が晴れない。啓太は今、何をしているのだろうか。
電話でもしてみようか?それともメール?いや、したところで何を言えばいいのかわからない。
いつもなら、会話の内容なんて気にも止めず、ただ思うがままに楽しく喋っていられるのに。今日はなんだか無理、言葉に詰まりそうな自分がいて、いつも以上に沈黙が怖い。
(はぁ… なんだかな……)
私はおもむろに手で胸元をまさぐると、右手をスカートの中に滑り込ませては、随分と久方ぶりに、指で、寂しさを紛らわせにかかった。
(んっ あ、んん……っ)
ずっと啓太としてたから、ひとりでするなんてあの日以来だろうか。気がつけばやり方も、知らぬウチに以前とは随分と変わってしまっている。
されるように、されたように、ひとりでしてるにも関わらず、どこかひとりじゃない気分。
自分を慰めるだなんて良くできた言葉、いつの間にか私は啓太と体を重ねる事で、すっかり寂しさの意味を忘れていたみたいだ。
(んやっ も、もっと……)
クリトリスで始まりクリトリスで終わる。そんな単調な行為でしかなかったはずなのに、どこか物足りない刺激。
私は生まれて初めて膣内へと、自らの指を挿入してみた。けれど、細くて短い私の指では、本当に気持ちいい場所にはまるで届いてくれない。
やっぱりひとりは寂しい。誤魔化しきれない思いが虚しさを加速させ、全然気持ち良くなれない。
「けい……た……」
思わず呟いてしまったその名前に、切なさが溢れかえる。ずっと気づかないフリをしていた。気づいちゃいけないから、気づきたくなかったから、本当ははじめから全部わかっていたのに……
「け、啓太っ んっ 啓太ぁ……っ」
私は使い慣れた中指で、これでもかとばかりにクリトリスを激しく責め立てると、なかば無理矢理、強引なまでに、快楽の極みへと昇りつめた。
「あ、いいっ イクっ 啓太っ イ……くぅっ はあぁぁ……っ!?」
波打ち止まぬ体、荒ぶる吐息、確実に絶頂を迎えたというのに、訪れるのは虚しさばかり。
私は左手で隠すように顔を覆いながら、きつく唇を噛みしめると、どうしようもない切なさに、何故だかポロリと涙が零れた。