狂乱の夜-23
「タカっ!乗れ!!」
え?
「急げっ!!」
切羽詰まったシゲさんの顔。
え?
え……?
ええっ!!!?
またお預けかよ!!
いつになったら、お前はオレの手許に帰ってくるんだ!!!
慌ててシノちゃんの軽自動車に駆け戻った。
「どうしたのシゲさん!?」
ドアを閉めるなり、シゲさんに訊ねる。
かつて見たことがないほど、シゲさんは真剣なまなざしでオレをにらんできた。
「奴らが動き出した……。」
へ?やつら?
やつらって、まさか……ええっ!!!!!!
「タカのアパートまで、どれくらい掛かる?」
シノちゃんに聞いていた。
「1時間……くらいかしら。」
「10分で行け……。」
じゅ、10分って……そりゃ、無理……。
「はい……。」
え?はい?
はい、って……シノちゃん?……。
おわっ!!
シノちゃんが急にアクセルを踏み込んだ。
キュキュキュっと、タイヤが激しく鳴ったと思ったら、車体が沈んでいきなり背中がバックシートにへばりつく。
あれよあれよという間に車がすごい加速で走りだした。
シ、シノちゃん?……。
「裏道を通りますね。市街地は検問でスピードを出すのが難しいですから。」
「ああ、頼む。」
シゲさんが答えると同時に、いきなり急ハンドルが切られて身体が宙に浮いた。
うわぁ!まだシートベルトしてねえ!!
車体のケツが流れて視界が真横にスライドしていく。
ド、ドリフトだぁ?……。
車は直角に曲がり、国道を外れて住宅地の細道へ入っていった。
車一台分ほどの幅しかない細い路地を、シノちゃんはものすごい速度で車を走らせる。
軽特有のこもるようなエンジン音が耳をつんざく勢いで聞こえていた。
スピードメーターを見たら……。
ひぇぇぇぇぇ……。
怖くて、とても言えません。
「シ、シゲさん、やつらが来るってなんでわかったの?」
必死にシートベルトをしながら訊ねた。
「知り合いから情報があった。」
ものすごい速さで景色が変わっていっても、シゲさんの声に動じた様子はない。
「シンドウさん?……。」
シノちゃんも同じ。
「そうだ、俺の身内に危険が及ぶとシンドウ君のところにタレコミがあったそうだ。」
「まあ。」
シノちゃんはあんまり驚いていない様子。
「身内と言ってもお前たちのことではないから心配するな。」
「では、誰なんです?」
シノちゃんは普通にしゃべっているが、車外を流れる景色はものすごい勢いで変わっている。
「お前の姉だ……。」
え?マジ?
それは初耳ですけど……。
シホがシノちゃんのお姉さん?
「私にお姉さんがいるんですか?」
シノちゃんも初耳らしい。
そりゃ、そうだろ。
しかし、シノちゃんは取り乱す様子もない。
「お前の本当の姉ではない。だが、姉のようなものだ。俺が青森から連れてきた。」
「どうしてです?」
「見捨てることができなかったからだ。」
「そうですか……。」
シノちゃんは表情も変えずに、淡々と聞き流していた。
顔はずっと正面に向けている。
「それをお母さんには?」
「彼女には関係ないことだ。」
そのひと言でシノちゃんには、すんでしまったらしい。
いきなり、にこり、とシノちゃんは微笑んだ。
「それで、これからなにが始まるんですか?」
なんか楽しそうな顔してるし……。
「今夜、彼女たちが襲われる危険がある。」
「では、今から助けに行くんですね。」
「そうだ。」
「わかりました。」
え?わかっちゃったの?
なんなんだ、この親子……。
「タカ……。」
「なに?」
「いま聞いた通りだ。これからは何か起こるかわからん。降りるのなら途中で止めてやるが、どうする?」
はあ?
「それ、マジで聞いてるわけ?オレを怒らせて、なんか得することでもあるの?」
ちょっとキレそう。
「なら、高めておけ。もしかしたら、いきなり始まるかもしれん……。」
望むところだ!