狂乱の夜-22
不意に掛かってきたケータイ電話。
こんな時間に誰だろうと、シノは訝しんだ。
フロントパネル内のデジタル時計を見ればすでに深夜に近い。
怪訝な顔をしながら手にしたケータイを眺めると、発信者を知らせるイルミネーションに浮かんでいたのは「進藤さん」の文字。
少なからずシノは焦った。
隣りには父の姿。
シンドウがこんな時間に電話を掛けてくるような非常識な男と思われたくない。
今までこんな事は一度もなかった。
無視するべきか迷ったけれど、結局、シノは通話ボタンを押した。
こんな時間に掛けてくるなんて何かあったのかもしれない。
予想は正しかった。
(逃げろ!シノ!)
唐突に聞こえた叫び声。
あまりに大きな声だったから、それは隣りにいた父にも聞こえたに違いない。
できるだけ平静を装い、トーンを落として答えた。
どうも要領を得ない。
どうやら父と話したがっていることだけはわかった。
「じゃあ、お父さんと替わるね。」
ケータイを受け取った父は、耳に当てるなりすぐに顔色を変えた。
「それは本当か!!?」
滅多に慌てることのない父が焦っている。
こんなに驚く姿は記憶にない。
ただごとじゃないことが起こった。
それだけはわかった。
「すまない!急ぐので、これで電話を切らしてもらうよ。ああ、わかった、じゃあディズニーランドに行った帰りにでも立ち寄ってくれ。礼もしたいから。それじゃ。」
ディズニーランドのことを知っていたのはちょっと驚いたけれど、昔から父に隠しごとはできなかった。
きっと進藤さんのこともすっかりばれてるはず。
でも、認めてくれているみたいだから少しだけホッとした。
「タカっ!乗れ!!」
ひどく切羽詰まった顔をしていた。
「どうしたのシゲさん!?」
戻ってきたタカさんの顔にも不安の色。
ひどく緊迫していた車内の空気。
「奴らが動き出した……。」
呻くように父がいった。
え?やつらって、なに?
なに?なに?
なあにぃ?
「シノ!今来た道を戻れ!」
とりあえず、いわれたとおり慌ててUターン。
「タカのアパートまで、どれくらいかかる?」
緊急事態であることは察していた。
「1時間……くらいかしら。」
そう、私が普通に走れば、それくらい。
「10分で行け……。」
10分だなんて……。
「はい……。」
じゃあ、暴れちゃいますよ♪
これからなにが起こるのかわからないけれど、ちょっとだけワクワクしていた。
だって、ほんとの私はいけない子。
大きく息を吸い込んだ。
実は、とても早く走れる可愛いこの子。
久しぶりにアクセルを思いっきり踏み込んだ。
嬉しがるようにタイヤが、キュンっ!と鳴った。