狂乱の夜-16
――シホの部屋――
(ハツ、いいか?)
(はいよ……。)
オジキが言った通り、鍵は電気メーターの裏側に隠してあった。
タンが取りだして、さっそく鍵穴に通した。
サムターンのシリンダー錠を音を立てないようにゆっくりと回した。
カチリ、と小さな音がして施錠が解けた。
静かにドアを開けて、素早く巨体を中へと滑り込ませた。
こんなことなら朝飯前だ。
これまでにも幾度となくやってきた。
今までにさらってきた人間は数知れない。
男もいれば女もいた。
さらった奴らが、その後どうなったかなんて知ったこっちゃない。
だが、好みの女がいれば少しだけ悪さはさせてもらった。
泣き叫ぶ女の首を絞めて黙らせるのは、何とも言えない愉悦がある。
細い首をちょっと握っただけで、恐怖に顔を引きつらせながら女どもはすぐに黙る。
喉元まで突っ込んで、しゃぶらせる。
首を掴んでいるから、どんな女も必死になる。
白目を剥くまで続ける。
存分に愉しんでから、喉の奥深くに流し込んでやる。
押し込んだままだから、息ができずにむせ返る。
激しくむせって、鼻から精液を噴き出すこともある。
まったくおかしすぎて笑いがとまらねえ。
ガキだって同じだ。
首を握れば、もう逃げられない。
タンもハツも拐かしのプロだ。
女とガキをさらうくらい、俺たちにはなんでもねえ。
(ハツ、目は慣れたか?)
(おう。)
タンもハツもすぐには押し込まなかった。
目が慣れるまで玄関の上がり框に身を屈めて潜んでいた。
見つめる先には、わずかばかりの薄明かり。
豆電球の淡い灯りだけがリビングに残っている。
暗闇にいたから目が慣れるのは早い。
見える範囲に素早く目を走らせて、中の様子をさぐった。
とりあえず、リビングにひとの気配はなさそうだった。
奥に引き戸の閉まった部屋がひとつある。
右手の横に、もうひとつ。
おそらく、そのどちらかが寝室だ。
タンがハツに目配せした。
タンが正面に行く。
ハツは右だ。
足音を殺して前に進んだ。
ふたりとも体重が100キロを越える巨漢なのに足音がしない。
どういうわけか、ミシミシと床の軋む音もしなかった。
タンが、正面の引き戸をわずかに開ける。
中から光が漏れてこない。
なおも開いて隙間から覗く。
薄闇に慣れた目は、そこに住人がいないことをすぐに教えてくれる。
ベッドは置かれているが、いるべきはずの家人の姿がない。
留守か?……。
嫌な予感が頭をもたげた。
さらいに行って留守だったことは、まれにある。
拐かすのは素早いが、このふたりに計画なんてものはない。
いつも行き当たりばったりだ。
これが地元なら仕切り直しもできるが、車で数時間以上もかかる場所では簡単に出直すこともできない。