狂乱の夜-11
近親相姦には魔力がある。
メグミちゃんは、父親との関係を嫌悪しているにもかかわらず、いまだにその支配から逃れられないでいる。
兄の存在が拠り所となっているが、その関係が完全に終わったわけではない。
世間からは理解されない禁断の領域に取り残され、最後にすがってしまうのは、やはり断ち切ることのできない血の絆。
神をも恐れない所業でも、このひとだけは理解してくれるという連帯感。
なにより恐ろしいのは、他人からは決して得ることのできない背徳感と、たとえようもない快楽をもたらす絶妙な身体的マッチング。
心では否定しても身体は抗わない。
いや、抗えない。
メグミちゃんは、父親から呼ばれるとダメだとわかっていても向かってしまうと言っていた。
そして嫌悪する対象に抱かれているはずなのに、途方もない快楽を得て、精神が安定するとも。
シホも、同じなのではないか。
今のシホはひどく不安定で、父親を畏れていながらも、心の中では欲している。
刑務所に収監されていた父親が釈放されたとわかった今では、心の揺れはピークに達していることだろう。
だからこそ、シゲさんは休暇を与えてまで、オレに24時間シホたちを見張れといったのだ。
彼女が父親の元へ走る可能性があることに、早い段階から気付いて警戒していた。
レンとメグミちゃんの関係は、オレとシホの関係に似ている。
そして、メグミちゃんと父親の関係は、そのままイコール、シホと父親の関係だ。
ダメだとわかっていても、父親の元へ向かってしまったメグミちゃん。
根性なしのレンは逃げ出して、彼女を見捨てた。
はたしてオレは、シホが自発的に父親の元へ帰ろうとしたとき、彼女を止めることができるのだろうか?
蒼白な顔となって父親を求めるシホに、オレの声が伝わるのか?
対処の難しい問題となりつつあった。
想像もできなかった真実を聞かされ、オレはやはり動揺していたのかもしれない。
「あ、そうだ……えっと……。」
なにがあっても、あいつ等を守ってやろうと決めたはずだった。
「あの、悪いんだけどさ……。」
なのに、オレはやっぱりそれをまだ現実のものとして受け止めていなかったんだ。
だから、判断を誤った。
さっさと帰ってやれば良かったものを、駐車場を出ようとしたところで、オレはシノちゃんに言ってしまったのだ。
「あのさ、先に車を取りに行きたいんで、ちょっと寄り道してもらっていいかな?」
このひと言が、最悪の形で強烈なしっぺ返しをオレに食らわせることになる。
シゲさんは、行き先を変えたオレを振り返りもせずに、ちらりと見ただけだった……。