遠き日々-16
あのホテルでの事件から2ヶ月ほどが経っていた。
わたしとコトリは、「あすなろ園」という、特別養護施設に送られていた。
そこは犯罪に関係した子供や、緊急に避難を必要とする特殊事情のある子供たちばかりが集められた養護施設で、生後間もない子でも不自由することがないようにと、保育器や授乳の設備も完備された特別な施設だった。
他の養護施設と比べても、ベテランの職員ばかりが配置された比較的規模の大きな施設で子供たちの数も多かった。
犯罪に関わっていても、特別な事情があっても、やっぱり子供の中にいれば子供は子供らしくなる。
わたしは久しぶりに笑顔を取り戻していた。
コトリは保育ルームに預けられて、ベテランの職員たちが毎日面倒を見てくれていた。
だから、わたしは安心して授業にだけ専念すればよかった。
知能検査をされた後に、わたしだけが特別授業を受けることになった。
まだ12歳だったけれど、知能はすでに大学入試ができるほどのレベルにあった。
客を待っている間は、何もすることがなかったから、父に頼んで勉強することを許してもらっていた。
それまで以上に客を取るという条件付きだったけれど、あのThrushの中でわたしだけが活字を読むことを許された。
わたしは父が買ってくれた本を、暇さえあれば貪るように読み耽った。
気のいいお客さんのときは、セックスをしながら本を眺めたりもした。
中には内緒で、こっそりと本の差し入れをしてくれるお客さんもいた。
暗記が得意で、計算も速かった。
だから、その才能に気付いた父は、途中からわたしに帳簿を任せるようになった。
おかねの出入りは、すべて把握していた。
お客の名前から住所から電話番号まで、全部暗記していた。
だから、父がわたしをあのまま放っておくはずなんてなかった。
でも、なかなか父はアクションを起こさなかった。
あの人にはわかっていたのだ。
わたしが堪えきれなくなることを……。