忍び寄る影-3
――現在 青森署内――
『……お客様のおかけになった電話番号は、現在……。』
ちきしょう……なぜ出ない!
よりによって、こんな時にどうして電源を切ってるんだ!?
何度コールしたところで、虚しい音声が返ってくるだけだった。
待ち望む声は、何度試したところでスピーカーから聞こえてこなかった。
それでも、諦めきれずにケータイの番号を押し続けた。
「シンドウ係長、そろそろ捜査会議が始まりますよ。」
「わかってる!」
夜の廊下で、ひとり慌てふためきながらケータイを握り続ける男の姿は、すでに数人の部下を持つ身となった今では醜態と言えただろう。
だが、形振りなどかまってはいられなかった。
10分ほど前に、突然、掛かってきた一本の電話。
『シンドウさんかい?……』
受付の女の子から電話を告げられ、受け取った受話器を耳に当てると、聞き覚えのない男の声が、そう訊ねてきた。
『ああ、そうだが、君は?』
『誰だっていい……。あんた重丸って男を知ってるな。』
低い声で、重丸の名を告げられ、にわかに緊張した。
『ああ、よく存じ上げているが……それが、何か?』
『いいか、よく聞くんだ。これからその重丸の関係者が襲われる。今夜だ。重丸に教えてやれ。』
今夜!?重丸さんの関係者が襲われる!?
咄嗟に、脳裏にひとりの女性の顔が浮かんだ。
長い黒髪の美しい才女。
舞うような華麗な太刀筋は、彼女を「天女」として、知らしめた。
『それは、いったい何のことだ?』
ただの脅しではない。落ち着き払った声で、それはわかった。
すぐにでも、電話を切りたい衝動に駆られた。
だが、デカの本能が、少しでも情報を得ようと試みさせた。
『言いたいのはそれだけだ。後は、あんたの好きにすればいい……。』
しかし、電話はあっさりと切られた。
やはり脅しではない。愉快犯なら、相手の反応を見て楽しむ。
シンドウは、慌てて受話器を戻すと、自分のケータイを開いて、かつての師匠、重丸先生の文字を探した。