引き籠もりの友-6
「何度も家を出ようとしたの。家出も何回もした。
でも、ダメなの。お父さんから連絡があると、それだけで身体が動かなくなっちゃうの。
そして、行っちゃダメだって、わかってるのに、足は、勝手にお父さんのところに行っちゃうの。
いつも、そうなんだ。
お父さんが、目の前にいると、身体が震えて……怖くて……すごく怖くて、身体の震えが止まらないの。
でも……。」
そこで、メグミちゃんは、口惜しそうに唇を噛みしめた。
「でも、なに?」
「う、うん……。裸にされてね、お父さんに抱かれると、どうしてか震えが止まるの。
そして、お父さんが入ってくると、もう、わけがわからなくなっちゃうの……。」
「それは、気持ちいい……ってこと?」
恥ずかしげに、顔を俯かせた。
「うん……。すごくイヤでたまらないのに、ほんとは逃げ出したいのに、身体は全然違うの。
気持ちいいって言うか、なんだかホッとして、安心出来る、みたいな感じ。
怒られずにすんだ、みたいな……。」
精神の縛りか……。
近親相姦には、魔力がある。
何かで、そんなことを聞いた覚えがある。
望む、望まないに関わらず、たった一度の過ちで、永劫に閉ざされてしまう健全な未来。
もう、二度と戻れないという罪悪感に足は震え、心は押し潰されそうになる。
でも、ひとりじゃない。
同じ秘密を持った人間が、この世にはもうひとり。
そこに生まれる、奇妙な連帯感。
同じ遺伝子から創られた雌雄体は、セックスの相性が抜群にいい。
まるで精巧に作られた凹凸が合致するように、男女の性器も互いにマッチする。
やがて、自分を悦ばせるために、相手が存在しているような気さえしてくる。
他人からは、絶対に得ることの出来ない快楽。
奥底にあるのは、血の絆。
ひっそりと病んでいく精神。
あきらめていく心。
気がつけば、泥沼の中であがいている。
どんなに心で拒んでみても、また、同じ過ちを繰り返してしまう。
逃げることは出来ない。
なぜならば、それが彼らには、もはや当たり前のことなのだから……。
近親相姦にハマり込むと、そこから、なかなか抜け出せない理由だ。
メグミちゃんも、この魔力に囚われているのかも知れない。
やっかいな問題だよなぁ……。
「でもね、最近は、そうでもないんだよ。」
オレのしかめっ面を見て、メグミちゃんの方が心配したらしい。
「どういうこと?」
「アニキに、ヤらせるようになってからは、そんなに、お父さんにも会わなくなったってこと。」
「レンが、守ってくれるから?」
「ははっ、無理無理。アニキにそんなこと出来ないよ。」
「じゃあ、なんで?」
「なんでだろ?ワタシにもわかんない。でもね、前は、お父さんじゃなきゃダメだったんだ。」
「ダメって?」
「へへ……すごく気持ちがイライラしたり、不安になってもね、お父さんにしてもらうと、なんでか落ち着いたの。
後で、落ち込みもしたけどね。
他の男じゃダメだったんだ。
何人も寝たし、中にはカッコいいのもいたけど、あんな気持ちになれたのは、お父さんだけ。
でもね、アニキとするようになってからは、こっちの方がずっと良くなったの。
なんて言うか、安心出来るとかじゃなくて、温かくなるような、ちょっぴりだけど幸せになるような……そんな感じかな?
だから、少しは、お父さんのこともシカト出来るようになったんだよ。」
ふーん……。
「あんな変なカッコさせるアニキなのに?」
「へへ。アニキが喜ぶからね。アニキが嬉しそうにしてくれると、ワタシも、ちょっとだけ嬉しくなるんだ。口には、出さないけどね……。」
なるほどね。
少しだけ照れたように笑う表情の中に、レンを慈しむ心が十分に読み取れた。
「ねぇ、今度、お金取らないでレンにヤらせてやれば?」
「なんで?さっきと言ってることが全然違うじゃん!」
幼さの残る顔が、不思議そうな顔をする。
「うーん、わからないけど、その方がメグミちゃんが強くなれるような気がする。」
「ええ?どうして?」
「何でだろうね?」
なんだか、不思議と可笑しかった。
親父さんとは、確かに切っても切れない血の絆があるんだろう。
でも、それはレンだって同じだ。
そして、メグミちゃんは、親父さんなんかより、ずっとレンの方を……。
オレが笑ってるのを見て、メグミちゃんは不思議そうな顔をしてたけど、やがて、彼女も顔をほころばせると、涙を拭った。
「今日のこともあるし、次は、タダでヤらせてあげようかな……。」
「うん、そうしてみ。」
あの根性なしが、君のために手首まで切ったんだぜ。
「強くなれるかな?」
「なれるさ。」
だって、あいつが好きなんだろう?
「へへ……。」
そう言って、笑ったメグミちゃんの顔は、まさしく13歳の可愛らしい女の子だった……。