引き籠もりの友-5
「生きてるのが……間違ってるのかなぁ……。」
他人事のように、メグミちゃんがつぶやく。
いったい、オレに何が言えた?
この子は、オレの想像なんか、遙かに絶するような地獄の中で、ずっと生き続けてきたんだ。
「死ぬなんて、考えちゃダメだよ……。」
安っぽいセリフ。
「へへっ、でも、ずっと考えてたよ。」
「え?」
「ずっと、死んだ方が楽だって考えてた。実際、死のうと思ったしね。」
「メグミちゃん……。」
「どうせ、死ぬんなら、ワタシを裏切ったアニキの目の前で死んでやろうと思ったの。
で、マンションに行ったんだ。
アニキ、バカみたいに泣いてたよ。
ごめんね、ごめんねって、ワタシにしがみつきながら、ずっと泣いてた。
その時わかったの。
この人は、泣くことしかできない人なんだって。
すごく、弱い人なんだって。
だから……ワタシが死んだら、この人も死んじゃうんだろうなって。
それで、死ぬの止めたの。
ワタシがいなくなったら、アニキ死んじゃうんだもん。
だったら、アニキのために生きていてあげようかなって、そう思ったの……。」
そうか……だから、あんなに……。
そのとき、少しだけわかった気がした。
この子は、死にたがってたわけじゃない。
生きるための理由を必死に探していた。
どんな些細なことでもいい。生き続けるための理由が欲しかった。
それは、こじつけに近いものだったのかも知れない。
でも、彼女には、それだけで十分だった。
やっと、探し出した理由。
気弱な兄を生かせるために、自分も生きる。
それが、彼女が、この世に生き続けるために、やっと見つけた存在意義。
だから、レンを傷つけられて、あんなに怒ったわけだ。
なるほど……。
「で、死なないついでに、ヤらせてあげちゃったわけ?」
わざとおどけて言ってみた。
もう、これから先、この子が死を選ぶことはないだろう。
レンが、生き続ける限り、この子も生き続ける努力をする。
暗い話しは、好きじゃなかった。
「だって、可哀相だったんだもん。
いい歳なのに、まだ童貞だったんだよ。
女の子知らなかったの。
ワタシなんか9才からヤッてるのに、同じ兄妹で不公平だと思わない?」
メグミちゃんも、おどけたように言った。
確かにね……。
「でも、タダでヤらせるのも癪だからさ、お金取ってるんだ。一度は、ワタシのこと見捨てたんだから、そのくらい当たり前だよね?」
幼さの残る顔に、ほんの少しだけ戻った笑顔。
「ああ!当然だよ!どうせ、しこたま儲けてんだから、たっぷり搾り取ってやりな。」
「うん。アッチと一緒に、搾り取ってやる。」
「はは……。」
13歳とする会話じゃねえな……。
「どうせなら、一緒に住んじゃえば?レンは、一緒に住もうって、言ってるんだろう?」
「う、うん……。」
そんなアホな両親の待つ家に帰ることなんてない。
いっそのこと、レンと一緒に暮らした方が、メグミちゃんにとっても、遙かにいいはず。
確かに血の繋がった兄妹なのかも知れない。
でも、メグミちゃんが、レンにそれ以上の感情を抱いているであろうことは、薄々だが、オレにもわかった。
でなければ、金をもらったところで、ヤらせたりはしない。
「やっぱり、ダメだよ……。」
なぜかメグミちゃんは浮かない顔。
「なんで?」
「う、うん……。」
「お父さんから、逃げ出したいんだろう?」
「うん……。」
「じゃあ、簡単なことじゃない?」
「そうでもないよ。」
「どうして?」
「どうしても……。」
メグミちゃんは、口を閉じて黙り込んでしまう。
「家を出るだけだよ。」
「そんなの、わかってる。」
「たった、それだけのことだよ。」
「出来るなら、とっくにしてるよ……。」
「何が、問題なの?」
「あのね……。」
メグミちゃんが、静かに語りはじめた。