引き籠もりの友-2
「ほら!メグミ!さっさと謝っちゃなさい!」
「ごめんなさい……。」
はい……。
でも、まだ不服そうなツラだな……。
着替えを終えて、ようやくリビングに顔を出したメグミちゃん。
さっきまでのロリータドレスとは違って、今度は、身体の線がはっきりと出るタイトなシャツに皮のミニスカート姿。
ソファに座って、愁傷に俯いたりしてるが、時々オレを見上げる瞳には、まだまだ反抗の色。
なんだコラ、ほんとにヤっちまうぞ。
まだ、くっきりとまぶたの裏に残っていた可愛らしいお尻。
出来ないなんて思うなよ。
こちとら、飽くなきチャレンジャーなんだ。
お前より年下の子とまで、ヤりまくろうとしてんだぞ!
あんまり自慢にゃならんけど……。
「まあ、原因を作ったのはオレだし、これでアイコってことでいいよね?」
子供に熱くなったところで仕方がない。
いい加減、許してやろうと思ってたら、コイツが、とんでもないこと言い出した。
「結婚して。」
「へっ?」
「結婚して!」
メグミちゃん、狂乱の変。
な、何を言ってるんですか?
「あわわわ……ちょ、ちょっとメグミ!お、お、落ち着きなよ。一体、な、何言ってるの!?」
お前が落ち着け。
ついでに、レンも半狂乱。
「ワタシのお尻見たでしょ?だから、結婚して。」
凛とした表情だった。
レンなどが言わなくても、彼女は十分に落ち着いていた。
その落ち着き払った声が、冗談ではないと告げていた。
「結婚て……。」
ラブコメか?
こんな、パターンがあったような気もするが……。
「ワタシのお尻見たじゃん!もう、おヨメに行けないよ!!純情なオトメを汚したんだから、責任取って!!」
純情な乙女って、あなた……。
純情な乙女は、あんなゴージャスなブラジャーなんかしません……。
「それとも責任取らないで逃げるつもり!?そんなの許さないからね!!」
まったくの言いがかり。
「ちょっと、メグミ!!いい加減にしなさい!!!」
腰を浮かせて、レンは大慌て。
「アニキは黙ってて!!元はと言えばアニキのせいなんだからね!!アニキがだらしないから、ワタシがこんな目に遭うんじゃない!!?」
そりゃ、違う気もするが……。
「ダメッ!!、そんなの絶対にダメッ!!メグミは、お兄ちゃんのものだからね!!許さない!!メグミは、お兄ちゃんだけのもの!!」
おいおい……。
「何も出来ない意気地なしのくせに、出しゃばらないで!!それとも、あの時みたいに、またワタシを見殺しにする気!!?何も出来ないんなら、引っ込んでて!!」
あの時?
「だ、だから……いっぱいお金……あげてるじゃない……。少しでも、メグミを癒してあげたいから……。」
こらこら、そこで弱気になってどうする?
それに、お金をあげても癒しにはならんぞ。
「ふん!アンタって、いつもそうよ。イヤなことには目をつむって、お金だけ出せば済むと思ってる。アンタなんてサイテーの人間よ!!」
それが、ほんとならサイテー。
「そりゃ、確かにボクは人間としては、最低かも知れないけれど……でも、誰よりもメグミを愛してるよ……。」
「き、気持ち悪いこと言わないで……。」
メグミちゃんの頬に、ほんの少し、朱がさした。
「嘘じゃないよ。メグミのためなら、どんな事だって出来る……。」
初めて見た、レンの思いつめた眼差し。
でも、幼さの残る顔に浮かんだのは、意地悪の色。
「じゃあ、死んでみてよ。どんな事だって出来るんでしょう?ワタシのために死んでみて。」
メグミちゃんが視線を向けた先にあったのは、さっきまで天井に突き刺さっていた包丁。
コラコラ、おイタもたいがいにしとけよ。
ふざけたこと言ってると、またお仕置きするぞ。
レン、ビシッと言ってやれ!
メグミちゃんは、冗談のつもりだったのかもしれない。
レンに、そんな勇気はないと、高を括っていた。
それは……オレも同じだった。
うっすらと笑っていた顔。
レンが静かに立ち上がった。
「メグミのためなら、死ぬことだって怖くないよ。」
にこやかに笑いながら、ヤツは包丁を握った。
えっ?
「嘘じゃないよ。」
幸せそうな笑みまで浮かべていたアイツ。
精一杯強がることで、メグミちゃんに信じさせたかったのかもしれない。
不器用なヤツ……。
あっという間の出来事だった。
不器用で、臆病な引き籠もりの友は、うっすらと笑みを浮かべたまま包丁を横に滑らせると、一瞬にして顔を血の色に赤く染めた……。