裏切りの男-4
だが……。
もはや、そんなことなど、どうでもいい。
自分の身を守るためならば、タイペイマフィアまで使おうというのだ。
それが、現実のものとなれば、間違いなくあの子は、この世から姿を消す。
「私に時間を下さい。考えがあります。必ず、先生の意に添えるよう努力致します!」
何とかしなければ。
あの子には、なんの罪もない。
ツグミは、和磨を慕うがゆえに、過ちを犯したに過ぎない。
「一体何をしようというのだ?
もはや、時間は限られているのだぞ。」
とにかく、今はビデオを取り戻すことが先決だ。
アイツらのためにも……。
「奴らと交渉します。
必ず手を引かせますので、芸津ビルの奴らを使うことだけは、どうか、お考え直し下さい。」
この先生は、俺と和磨の繋がりに、まだ気づいてない。
そこに、一縷の望みがある。
「君がそこまで言うのなら考えなくもないが……しかし……。
やはり、あの小娘だけは、許せん!
それに、あの娘にのうのうと生きていられたのでは、わしは枕を高くして眠れん!
あやつは、間違いなく生き証人なのだ!
絶対に、生きていられては、困るのだ!!」
どうしても、ツグミを消すつもりか?
当たり前に口走っているが、殺人を示唆するなど、もはや、まともな判断力を失っている。
「わかりました。それに関しては、私も何も言いません。
先生のお好きになさって頂いて結構です。」
ここで、どんなに説得したところで、おそらくこの先生は承知しないだろう。
窮鼠猫を噛むの喩えがあるように、追い詰められた人間は、何をしでかすかわからない。
早急に、和磨とツグミを引き離さなくては。
娘を……2回も奪われてたまるか!
「うむ。」
「つきましては、先生にお願いしたいことが、ひとつだけ……。」
「なんだ?」
和磨、お前にゃ悪いが、しばらくの間、塀の向こうに行ってもらうぞ……。
「先生が、いつも遊びに使われていたあの白い粉……。」
しわ襞の刻まれた老人の顔が、わずかに狼狽えた。
「あれを少々……私にお貸し下さい。」