わずかな光-4
「で、その新しい情報ってのは?」
リビングの中。
レンと向かい合わせ。
メグミちゃんは、着替えるために寝室へ。
「あ、ああ……えーとね、昨日もう一度サカイ先輩のビデオを観てて変なことに気がついたんだ。」
「変なこと?」
「うん。大したことじゃないんだけど、前にあのシリーズは全部で9本あるって言ったの覚えてる?」
「ああ。」
「だから一番新しいサカイ先輩のは、9番目のはずなんだけど、よく見たら10番目らしいんだ。」
「なんでわかる?」
「ビデオの最後にタイトルロールがあったのに気づかなくて……。
昨日、見返してて初めて気づいたんだけど、
それには『おかあさんと一緒10』ってあるんだよ。」
「じゃあ、9本じゃなくて、10本あるってことか?」
「うん。でも、ダウンロードのカタログには9本しかないんだよね。
で、念のため調べてみようと思って、夕べ一晩かけて全部ダウンロードしてみたんだ。」
「ちょ、ちょっと待て。全部?」
「うん。」
「いったい、いくらかかった?」
「500はいかなかったよ。」
ご、500ですとぉー!!!
お前、オレの財布の中身を……。
少しでいいから、恵んでくんない?
「で、調べてみたら、どうも7番目の作品だけがないみたいなんだ。」
「つまり、歯抜けになってると。」
「うん。」
「それが、キョウコとなんの関係が?」
「ない。」
・ …………………………
お前なぁ……。
「でもね、面白いことがわかったんだ。」
「面白いこと?」
「ああ、実はその作品も、一度売りに出されてるんだ。
でも、たった一晩だけで、それも、すぐに回収されちゃったんだって。」
「誰からの情報だ?」
「ミタライ氏。気になったから彼に訊いてみたんだ。
そしたら彼は、なんと!偶然にもそのビデオを手に入れてたんだ。
でも、数日もしないうちに、すぐに得体の知れない奴らが現れて、ダウンロードしたデータを持ち去っていったらしい。
もちろん代金は返されたけど、口止め料だと言わんばかりに謝礼まで置いてったらしいよ。」
「そこまでして回収したのか。しかし、よく家がわかったな?」
不特定多数を相手の商売で、そんなことが可能なのか?
「何言ってるの?ボクらは登録してるんだよ。
ダウンロードするために自宅の住所も名前も電話番号も、すべて登録してるんだ。
前に言ったじゃない。コピーしたら誰に売ったものか、すぐにばれるって。」
「ああ!なるほど。」
どうしたってまともなビデオじゃない。
これが、あからさまに世に出回れば警察が動き出すのは必至。
売り手側は、買い手の素性を押さえることで、共犯意識を持たせ、大量に出回るのを防いでるわけだ。
自分の身分が明らかになっても買いに来るような奴らは、共犯と見なされても仕方がないからな。
身分を明かせと言われれば、尻込みする奴らもいただろう。
だが、単価がべらぼうに高いだけに多くの顧客は必要としない。
どんな事をしても手に入れようとする生粋のマニアにだけ、さばければいい。
そして、そんな奴らは、せっかく手に入れたものをおいそれとは手放さない。
加えてアクティベーションのプロテクトだ。
よほどのことがない限り、この非道なビデオが明るみに出ることは、まずない。
なかなか考えてやがる。