わずかな光-3
3千円もかかったぞ!
レンのマンションの前。
タクシーでやってきたのはいいが、すこぶる痛い出費。
財布の中に残ったのは、英世さんが一枚だけ。
シホに送ってもらえば良かった……。
タクシーの中からシゲさんに電話してみたが、電源が切られていてシゲさんには繋がらなかった。
市長に会うときや、考え事に集中したいとき、まれにシゲさんは電源を切ることがある。
忙しいシゲさんは、頻繁に電話が掛かってくるから、いちいち応対してたら仕事にならないんだそうだ。
マナーモードくらいじゃ、ぶんぶんバイブが唸って集中も出来ないから、最初から電源を切ってしまう。
たぶん、今は忙しい時間なのかもしれない。
いつでも、電話して来いって言ってたくせに。
何かあったらどうすんだよ?
クルマを取りに来たのが目的だが、新しい情報が入ってないかレンに確かめたかった。
エントランスからインターフォンを押すと、すぐにアイツが出た。
少しはインターフォンのボリュームを上げたらしい。
「タカァッ!どうしたの急に!?」
なんだ、その驚いた声は?
「ああ、昨日色々とあってな、お前の所にクルマを置いてったんだ。
で、それを取りに来たわけ。
ついでと言っちゃなんだけど、何か新しい情報あったか?」
「う、うん。あるにはあるんだけど……。」
「じゃあ、今から上がっていくよ。」
「い、いや!その……。」
「どうした?都合が悪いのか?」
「え……と、その……」
すぐに思い当ることがあった。
「妹が、来てんのか?……」
オレを襲った謎の襲撃者。
「う、うん……。」
「そっか……。」
「ごめん……タカ。悪いけど、明日にしてくれる?」
ああ、わかったよ……って。
わかるか!!
「今から行って、ケツ引っぱたいてやるから、鍵開けて待っとけ!!」
「ええっ!!」
ざけんなよ!洒落じゃ済まねえ話しだぞ。
いきなり寝込みを襲われて黙ってられるか。
きっちりお仕置きしてやる。
エレベーターで15階に辿り着くと、レンが、玄関から顔を出していた。
オレを見るなり、慌てふためいて玄関を飛び出してくる。
「ま、待ってタカッ!アイツも悪気はなかったんだ!
ちょっと、キレちゃっただけなんだ!」
悪気はなかっただとぉ?
「ちゃんと言って聞かせるから!タカの気が済まないなら、しっかりと謝らせるよ!」
当たりめえだ!
「だから……今日のところは穏便に……ねっ。」
下からオレを見上げながら、レンは機嫌をとるような目つき。
お前が、そんなことだからなぁ。
「どけ……。」
凄味をきかせて睨みつけたら、慌てて飛び退いた。
玄関を開けて、リビングに向かうと、いきなり包丁がお出迎え。
「く、来るな!き、来たらコレで刺すからね!」
あの子は包丁を握りしめて、オレの前に仁王立ち。
艶やかだった黒髪が……また金髪になってやがる。
前とは違うゴシック調のふわふわドレス。
でも、上は下着だけ。
フリルだらけで、やたらとゴージャスなピンクのブラジャー。
い、いい加減にしろよお前ら……。
目がぱちくり。
「ほ、ほんとに刺すよ!」
手が震えてるって。
何も言わずにズカズカズカ。
正面に立った。
「死にたいの!ほんとに死んじゃうからね!!」
いや、それは勘弁。
両手で包丁を握っていた。
上を向いた刃先が小刻みに震えている。
素人は、すぐに刃先を上に構えやがる。
本当は、上から下向きに構えなきゃダメなんだ。
じゃないとな……。
下から思いっきり手首を蹴り上げた。
包丁が飛んでいって、ものの見事に天井に突き刺さる。
あの子は、唖然とした顔。
すかさず、彼女を捕まえて脇の下に抱えた。
「は、離せこのヤロー!!」
いつまで、そんな口がきけるかな?
細い腹を小脇に抱えたまま、ひらひらのスカートの襞を思いっきり捲りあげた。
「キャッーーー!!!」
パンツ穿いてねえんでやんの。
可愛らしいお尻が丸出し。
そのお尻めがけて、バシッ!バシッ!バシッ!……。
10連発ほど。
これで懲りたろ。
身体を離してやると、惚けたように座り込んだ。
見下ろしてたオレと目が合うなり、可愛い顔を歪ませて大号泣。
「だ、大丈夫かメグミ!?痛くなかったか?」
慌ててレンが駆け寄ってきた。
痛くねえ訳ねえだろ!
これで痛くないなんて答えようもんなら、100連発カマしてやるよ。
ふーん、メグミちゃんって言うんだ。
メグミちゃんは、大声で泣きっぱなし。
泣いてる顔は、まさしく13才の女の子。
何が彼女を変えたんだか。
「タカ、もういいでしょう?メグミを許してやって。」
「あ、ああ……。」
許すも何も、降りかかる火の粉を払っただけだ。
放っときゃ、また襲いに来かねないからな。
「本当?、本当にメグミを許してくれる?」
「ああ。」
「本当に、本当だね。」
「しつこい。」
レンの顔が、ぱっと明るく輝いた。
「良かったねメグミ。貞操は守られたみたいだよ。」
そこかい!