見えない正体-1
第20話 〜〜「見えない正体」〜〜
薄い壁の向こうから、かすかに聞こえてくるのは、ボイラーの音。
シホの部屋。
セミダブルのちょっと大きめのベッドの中。
「シャワー浴びてくる……」
夕べお風呂に入ってないから、恥ずかしいんだって。
「だめっ!」
そのまま、一緒に入ろうとしたら、コトリに追い出された。
何か思うところがあるらしい。
昼になってコトリは、無事に退院し、オレとコトリは、取りあえずアパートに帰ることに。
「ごめんなさい。もう一度戻らないといけないの。」
シホが送ってくれたが、会計の仕事が、思いのほか忙しいらしくて、彼女は、もう一度病院へ戻っていった。
「退院したばかりなんだから、あまり、無茶はしないでね。」
部屋を出ようとしたところで、コトリに心配そうな目を向けながら、シホがそっと耳打ち。
お前は、なぜ、オレの腹の中を読む?
無茶?
するよ!
だって、コトリがイイって言うんだも〜ん♪
げへへっ……。ほんとに、できんのかな?
コトリが出てくるまでの暇な時間を、レンの作ってくれたファイルを眺めていた。
すげぇ資料だな……。まったく、アイツのオタクぶりには舌を巻くぜ……。
主要な団体名、所在地域、活動範囲、勢力図、構成人数、主だった幹部の実名まで書いてある。
そして、A4の薄いペーパーには、阿宗会の重い歴史が、綿々と記されていた。