見えない正体-9
和磨は、バックミラーに映る景色を見つめていた。
シェラトンホテルが、小さな窓の中で、どんどん遠ざかっていく。
明日の朝までは、あの先生がべったりだ。
朝になったら、ツグミを迎えに行きゃあいい。
うまいこと狂ってくれたぜ。
見事なくらい、狂ってくれた。
あの女は、男を狂わせる。
まったく、母親にそっくりだな……。
和磨は、ぼんやりとバックミラーに映る影を見つめつづけた。
闇夜の空を背景に浮かぶ巨大な影は、すぐに、あのマンションを思い起こさせる。
あのマンションも、こんな風に夜空に向かって、誇らしげにそびえ立っていた。
(あの野郎は誰でもねえ、オメエを恐れたんだよ……。)
耳朶に蘇る呪いの言霊。
和磨は、バックミラーを覗きながら、口惜しげにギリッと奥歯を噛み締めた……。