見えない正体-8
同時刻。
青森シェラトンホテル。
1212号室。
「ツグミ!!どうしてお前にはわからないんだ!?」
「どいて……。」
まったく取りつく島もなかった。
「こんなことをしたところで、何も変わらないんだぞ!」
「あなたには、関係ないわ……。」
幾つにもカールされた、長い巻き髪。
まるでフランス人形のような青い瞳。
「どうして、もっと自分を大事にしないんだ!?」
ゴシック調の短いドレス。
足にはリボンの付いたニーソックス。
「大事に?……大事にしてるつもりよ。あの人が可愛がってくれるもの。」
「お前は、間違ってる!」
小柄な身体だった。
「間違っててもいいわ。あの人のそばにいられるなら……。」
ツグミは、冷たい眼だけを残して、そのまま部屋を出て行こうとする。
「待て、もう少し話を聞いてくれ。」
「離して。大声で叫ぶわよ。騒ぎになると、あなたの先生が困るんじゃない?」
ツグミの耳には、何も届かない。
ドアノブに手をかけた。
「あの子は……あの子は、どうするんだ?……。」
わずかにツグミの動きが止まる。
だが、彼女は振り返らなかった。
すぐにドアを開けると、そのまま部屋を出て行った。
向かいの部屋をノックする音が聞こえてくる。
「おお!!やっと来たか!」
感嘆の声。
バタンとドアの閉まる音がして、あとは何も聞こえなくなった。
いったい、どうすりゃいいんだ?……。
ベッドに座り込んで、頭を抱えた。
まさかこんな形で、また、あの子に会うことになろうとは、夢にも思ってもいなかった。
なんてこった……。
シコリのような徒労感だけが、ずしりと重く心にのしかかる。
和磨……このバカ野郎……。
かつての友の名を、重丸は胸の裡で罵った……。