見えない正体-23
どこを、どう通って帰ったのかも、よくは覚えていない。
ようやく家にたどり着いた頃には、夜中になっていた。
三隅が言ったとおり、家の中に美羽の姿はなかった。
はじめから予想していたから、驚きもしなかった。
子供部屋のドアを開けると、そこには穏やかな顔をして眠る娘の姿があった。
美羽は、娘だけは連れて行く気にならなかったらしい。
それとも、後から連れて行くつもりなのか……。
(ふたり並べて、やってやる。)
脳裏に、三隅の股の間に跪く、ふたりの姿がある。
和磨は、娘の寝ているベッドに歩み寄った。
美羽によく似た顔だった。
目の中に入れても痛くないほどに、可愛がっていた娘だった。
お前も、いずれ俺を裏切るのか?……。
英次と美羽は、和磨を裏切っていた。
ふたりで、通じ合い、影で和磨をあざ笑っていた。
あれほど愛していた美羽は、和磨を殺すとまで言ってのけた。
あっさりと裏切って、三隅の元へはしった。
もう、なにも信じられなかった。
(テメエのガキも、ほんとにテメエのタネなのかね?)
そうなのかよ……ツグミ……。
静かに布団をめくりあげた。
痛々しいほどに、幼い肢体が目の前にあった。
拾ったばかりの頃は、美羽もこんな身体だった。
あの身体で美羽は、男を知っていた。
英次の女だったのだ。
ツグミは、あの頃の美羽よりも、まだ幼い。
だが、すぐにあの女と同じ年頃になる。
お前は、誰にも渡さねえよ……。
寝ている娘を、両腕に抱え上げた。
「パパ?……」
大きな瞳が眠たげに開かれる。
和磨は、何も言わなかった。
静かに部屋を出た。
そして、ふたりの姿は、その夜から、消えるのだった。