見えない正体-22
「ついでだから教えてやる。
どうしてあのふたりが家を出なきゃならなかったのかをな。
美羽がしゃべってくれたよ。
黒滝の野郎、まだガキだったあの女に突っ込んだんだとよ。
それが、親にバレて、家にいられなくなったらしいわ。
で、家を飛び出したところを、織笠に拾われたって訳だ。
テメエも間抜けだよな。
美羽は、鼻から黒滝の女だったんだよ。
テメエと所帯を持つ前から、あのふたりはデキてたんだ。
そしてな、テメエと所帯を持ってからも、
あのふたりは、やりまくってたわけだ。
まったく目出てえ野郎だよな。
マメ泥棒は、オメエの目の前にいたって訳だ。
いいや、マメ泥棒はオメエの方か?」
三隅は、声を出して笑った。
部屋中に響き渡るほど、派手な大声で笑った。
それは、高らかな勝利宣言だった。
「テメエのガキも、ほんとにテメエのタネなのかね?
まあ、いい。
オメエも聞いたろう。
美羽は、もう俺のもんだ。
今頃、荷物まとめて、家を出てる頃だろうよ。
笑っちまうよな。
兄貴が死んで、散々泣きわめいてたが、一生面倒見てやるって言ったら、
すぐに寝返りやがった。
落ち目んなったオメエに未練はねえとよ。
一生贅沢させてくれんなら、俺に尽くすとさ。
まったく、女ってなあ、魔物だわ。
まあ、なんだな……
オメエも黒滝も、あの女に破滅させられたみてえなもんだな。」
三隅が立ち上がった。
勝ち誇った笑みを浮かべて、和磨に近づいてきた。
「女を見る目がなかったテメエを恨みな。」
手に、拳銃を握っていた。
銃口が、和磨の頭に向けられる。
和磨は、うなだれていた。
魂を無くしたかのように、ただ俯いて床に目を向けているだけだった。
撃鉄が上げられる。
三隅が、引き金に指をかけた。
和磨は、動かない。
死んだように、動かない……。
不意に銃口が下げられた。
「とっととぶっ殺しちまおうと思ったが……やめた。
テメエのその腑抜けたツラ見てたら、考えが変わったよ。
テメエは、殺さねえでおいてやる。
そのまま無様に生き延びてやがれ。」
三隅は、拳銃をケツにしまうと、部屋を出て行こうとした。
だが、何かを思い出したように、また戻ってくると、和磨の耳元で囁いた。
「オメエのあの可愛いガキも、まとめて面倒見てやるよ。
ガキでも突っ込めるってのは、美羽で証明済みだからな。
ふたり並べてやってやる。
ビデオが出来たら、オメエにも送ってやるよ。」
三隅が声を出して笑う。
和磨は、ぼんやりとした意識の中で、その笑い声を聞いていた。