見えない正体-21
「おっと、見せんのは、これだけじゃねえんだ。」
気配を察した三隅が、慌てて和磨を止めにかかる。
後ろのふたりが、わずかに身構えた。
「まあ、そう慌てんなよ。まだ、面白えもんがあるんだからよ。
おい……。」
三隅が顎をしゃくると、手下のひとりが、プレーヤーのディスクを入れ替えた。
「テメエには、とことん地獄を見せてやるよ。」
勝ち誇ったような笑み。
すぐにスクリーンに、映像が映し出される。
うっ!
息を呑んだ。
三隅がスクリーンの中に映っていた。
あの椅子は……この部屋じゃねえか!?
三隅は、今と同じように目の前のソファに座っていた。
裸だった。
開いた足の間に、女が跪いていた。
女の頭は、しきりに上下している。
水の跳ねるような、クチュクチュといやらしい音が、スピーカーから聞こえてくる。
女は、縛られていた。
両手を後ろ手に縛られ、胸に縄を掛けられいた。
三隅が、女の髪を掴んだ。
股の間に埋めていた顔を引き起こした。
美羽!!
美羽は、トロンとした目で三隅を見上げていた。
口のまわりが、いやらしく濡れ光っていた。
やっぱり捕まってたのか!
とっさにそう思った。
和磨が慌てて戻ったとき、美羽は家にいなかった。
夜になって、やっと帰ってきた。
組が襲撃されて、三日間の空白がある。
その間に、美羽は、三隅に掠われていたのだ。
和磨は、そう思い込んだ。
そう思いたかった。
だが……そうじゃなかった。
「明日になりゃあ、ぜんぶ終わる。」
くぐもった声だった。
それは、スピーカーから聞こえてきた。
「約束通り、お兄ちゃんは、助けてくれるんでしょう?」
すがるような美羽の声。
「ああ、オメエがちゃんと、如月の野郎を関西に行かせたから、約束通り、兄貴は助けてやる……。」
なん!?……。
「そこで、あの人は死ぬのね。親分さんが殺してくれるのね。」
「ああ、その通りだ。」
スクリーンの中の三隅は笑っていた。
「そうなったら、お兄ちゃんが組を継げるんでしょう?
親分さんのあとに、お兄ちゃんが組長になるんでしょう!?」
「ああ……だが、如月の野郎が生きてる限り、
オメエの兄貴は組を継げねえ。
織笠のオヤジが死んだとしても、如月が黙っちゃいねえからな。
それどころか、オメエの兄貴は如月に消されるかも知れねえ。
いや、きっと殺すな。
如月にとっちゃ、オメエの兄貴は目の上のたんこぶなんだ。」
「嫌!!お兄ちゃんが、死ぬなんて絶対に嫌!!
ちゃんと言う事をきくわ!
だから、お兄ちゃんを助けて!」
悲痛な叫び声が、部屋の中に響いた。
「オメエ次第だ……。オメエが頑張りさえすりゃ、兄貴は助かる。」
「何でもする!どんな事でもする!!」
「なら、如月を殺せるか?」
三隅が、カメラに向かって、にやけた笑みを浮かべた。
三隅は、カメラの位置を知っていた。
和磨に、見せつけようとしたのだ。
「殺せる……。」
小さな声だったが、美羽は、はっきりと、そう答えた。
その声を聞いたとき、和磨の中で、何かが壊れた。
「そうか。なら、兄貴は殺さねえでやる。
その代わり、オメエは、これから俺に従うんだ。」
三隅が、美羽のアゴを掴んだ。
「はい……。」
美羽は、小さく頷いた。
「立て……。」
三隅に言われて、美羽が立った。
「自分で挿れるんだ……。」
美羽は、縛られた不自由な身体のまま、カメラの方を向きながら、ゆっくりと尻を沈めていった。
三隅が指を添えた。
「ああっ……」
「いい道具だ……これからは、俺がたっぷりと可愛がってやる。
たまには、兄貴に会う事も許してやる。
だが、もうオメエは俺のもんだ。
俺の奴隷だ。
わかったな……。」
「ああっ……奴隷になります……親分さんに……尽くす奴隷になります……。」
美羽は、自分から尻をくねらせた。
「ああっ!……いいっ!!……親分様!!気持ちいいっ!!……」
中腰の不自由な姿勢のまま、妖しく尻をくねらせながら、我を忘れたように、悶えつづけた。
自分から、欲しがっているのが、ありありとわかった。
「へへっ……バカな女だ。
オメエがいなくなりゃ、兄貴が円組を継げると、
本気で信じ込んでやがった。
もっとも、そう思い込ませたのは、俺たちだがな。
本当なら、オメエにも消えてもらいたかったんだが、
うまい材料が見つからなかった。
消すのは諦めて、どこかに消えててもらう事にしたのさ。
オメエがいりゃあ、何かとやりづらいからな。
オメエの女房が手伝ってくれたおかげで、
うまい具合に事は運んでくれたよ。
こっちの思惑通りだ。
これほど見事にハマるたあ、オレも思っちゃいなかった。
これも、黒滝の野郎が、全部ひとりでひっかぶってくれたおかげだな。」
もう、和磨の耳には、何も聞こえてなかった。
立っている事さえも、出来なかった。
膝が抜けたように、和磨はその場にへたり込んだ。
美羽は……俺が死ぬものだと思い込んでいた。
いや……俺が死ぬのを期待したんだ……。
英次を助けるために……。
三隅にハメられたのは事実だったかもしれない。
だが、美羽は選んだのだ。
和磨が死ぬ事を……。