見えない正体-20
膝が震えて止まらなかった。
三隅たちが、目の前にいる事すら忘れかけていた。
覚えのある背中。
美羽によく似た顔の、千手観音菩薩。
白い手が、その千手観音菩薩を掴んでいく。
「ああっ!!お兄ちゃん!!……お兄ちゃん!!……。」
足を拡げきっていた。
浅黒い肌に、必至になってしがみついていた。
英次のケツが、やたらと艶めかしく動いているのが、ひどく悲しくてならなかった。
見覚えのある部屋だった。
それは、すぐ目の前にあった。
「どうだ?……なかなかの迫力だろう?」
卑下た笑い。
薄闇に野郎の顔は、はっきりとは見えなかった。
だが、きっと、腐れたブタみたいな顔で薄笑いを浮かべていたに違いねえ。
どうしてだ……。
それしか、頭にゃなかった。
英次の寝室を、斜め上から映していた。
ベッドが正面から丸写しになっていた。
女が体位を入れ替えた。
四つん這いになって、カメラの方を向いた。
美羽……。
乱れた長い髪から覗く、あどけない顔。
マッチ棒が2本も乗るって、自慢してた長い睫毛。
「ああっ!!……お兄ちゃん!気持ちいいっ!!気持ちいい!!」
英次が、尻を掴んで腰を叩きつけ始めると、美羽は狂ったように叫びだした。
まだ、幼さが抜けきらねえ声。
和磨は、この声が、好きだった。
「まさか、あの黒滝にこんな趣味があるとはな。
まさしく、犬畜生にも劣る奴らだぜ。
だが、おかげで、俺様にも運が巡ってきたんだから、文句も言えねえか。
黒滝の野郎、このビデオを見せたら、顔を青くして震えてやがったぜ。
よっぽど、オメエが怖かったらしいな。
泣きながら、勘弁してくれって、土下座までしやがった。
あんときゃ、ほんとに気持ちよかったぜ。
あとは、オメエが察する通りさ。
あのバカ野郎、あれほど可愛がってくれたオヤジを、
オメエ怖さに簡単に刺しちまいやがった。
まったく、あきれた野郎だぜ。」
そうかい……そういう訳かい。
これをネタに英次を脅しやがったのかい……。
この……くされ外道ども!!
後先なんざ考えなかった。
ただ、目の前の三隅を、ぶっ殺してやりたかった。