見えない正体-16
和磨は、挑発に乗らなかった。
三隅の後ろに立つふたりに、目を向けていた。
どちらから、先に倒すか。
それだけを、考えていた。
「なあ、如月……黒滝の野郎は、なんであんなバカなマネをしたんだと思う?」
「知るか。」
目は、後ろのふたりに向けたままだった。
英次が凶行に及んだ理由は、いまだに謎のままだ。
倖田組の残った組員たちに聞いても、理由がわからないと言っている。
「おかしいとは思わねえか?
あれだけ、織笠のオヤジに黒滝は可愛がられてたんだ。
それが、なんであんなバカなマネをした?」
「テメエ等が、何か仕組みやがったんだろうが。」
じゃなきゃあ、あの英次が、オヤジに刃物なんざ向けるわけがねえ。
「本当に、そう思うのか?」
「なに?」
和磨は、三隅に目を向けた。
「黒滝の野郎は頭がキレる。それは俺も認める。
だが、そんな頭のキレる野郎が、
簡単に俺たちの手に乗ったりすると思うか?」
「何が言いてえんだ!?」
「黒滝は、俺たちが考えるような罠にハマるほどバカじゃねえ。
だから、俺だって、ずっとアイツの下で、煮え湯を飲まされてたんだ。
だがな……
ありゃあ、偶然だったんだ。
たまたまだったんだよ。
俺は、見つけちまったんだ。
すげえ、面白えもんを見つけちまったんだよ」
三隅は、愉快でたまらないといった顔をしていた。
何を言わんとしているのか、和磨には、わからなかった。
「アレを見たときは、笑いが出たぜ。
これで、黒滝を抑えることが出来る。
アイツを使って、倖田組を牛耳ることだって夢じゃねえ、ってな。
だが、話しは、もっと面白え方に進んでったよ。
さすがは、速見の親分さんだ。
頭のキレが俺たちなんかたあ、訳が違う。
倖田組どころか、円組そのものを乗っ取っちまうんだからな」
「何を見たって、言いてえんだ……。」
「まあ、慌てんなよ。
それは、これからたっぷりと見せてやるからよ。
その前に聞きてえんだが、お前と黒滝ってのは義兄弟だったよな?」
「ああ、それがどうした?……。」
「義兄弟ってのは、穴兄弟ってことなのか?」
「なにぃ……。」
「けけっ……まったく、テメエは、目出てえ野郎だよ。」
「なんだと、コラッ!!」
「粋がるんじゃねえよ。
時間は、たっぷりとあるんだ。
その前に、もうひとつ俺に教えてくれや。
黒滝の野郎が、この世で一番恐れてたモノって、なんだ?」
「そんなもん知るか!」
「けっ!義兄弟のくせにそんなことも知らねえのかよ。
なら、俺が教えてやるぜ。
黒滝は、意気地がねえように見えたが、意外と芯は強え野郎だった。
ここ一番って時の決断力もあったわ。
さすがに織笠のオヤジが見込んだだけのことはある。
あのまま生きてりゃ、さぞイイ親分になったろうよ。
見かけによらず、肝っ玉はデカかったんだ。
どんな敵だろうが、あの野郎は、負けるたあ思っちゃいなかった。
だが、そんなアイツが、たったひとつだけ恐れるモノがあった。
それはな……」
三隅が、不敵な笑いを浮かべた。
和磨は、じっと三隅を睨みつけていた。
三隅の口元が歪んだように吊り上がる。
満を持したように口を開いた。
「くくっ……それはな……オメエだよ。
あの野郎は誰でもねえ、オメエを恐れたんだよ!!」