見えない正体-15
まだ時間は、8時を少し過ぎたばかりだった。
どこかで見ているのかもしれねえ。
和磨は、辺りを注意深く探りながら、寂しい廊下を歩いていた。
かなり、でかいマンションだった。
そのくせ、人の住んでる気配は、ほとんどなかった。
隣のビルを見ても、灯りのついている窓は少ししかない。
バブルが吹っ飛んで、いきなり景気が冷え込んだ。
構想時には予約が期待できたマンションも、この景気の冷え込みには勝てなかったらしい。
懐かしいドアを前にして和磨は立ち止まった。
英次が死んでから、ここにやってくるのは2度目。
美羽とふたりで、英次の遺品を整理して以来、ここにやってきたことはない。
二度と来ることはないと思っていた。
この部屋を手放すつもりはなかった。
英次は、ここに眠っているだけだ。
和磨は、そう思い込みたかった。
ドアノブに手をかけると、すぐにドアは開いた。
なんで、あの野郎が鍵を持ってやがる……。
倖田組には、まだ英次の遺品が残されていた。
そこで手に入れたのかもしれない。
深くは考えなかった。
中に入ると、灯りはついていなかった。
ゆっくりと、歩を進めた。
リビングに入ったところで、不意に灯りがついた。
「よう、遅かったじゃねえか……。」
こちらを向いて応接用のソファに、三隅が座っていた。
後ろに、ふたりの男が立っている。
情けねえ野郎だ。用心棒なしじゃ、何も出来ねえかい?
後ろに立つ、ふたりの男のうち、ひとりのスーツの胸が不自然に膨らんでいるのに気がついた。
はっ!こんな狭いところじゃ、ハジキは役に立たねえよ。
狭い家屋内の接近戦では、鍛え上げた拳にかなう武器がないことを、和磨は知っていた。
「ひとりか?」
三隅が訊ねた。
「ふっ……テメエとは、違う……。」
落ち着き払った声だった。
「まったく、小憎らしい野郎だな。
黒滝と言い、テメエと言い、まったく目障りでしょうがねえ。
だが、黒滝の野郎は無様にくたばった。
ざまあみろってもんだ。
バカが、こっちの狙い通りに踊ってくれたよ。
テメエも、すぐにでも、ここであの世に送ってやってもいいんだが、
それじゃあ、死んでも死にきれめえ。
せめてもの情けだ。
どうして、あのバカが死ぬことになったのか、今から教えてやるよ。」